古生物学:クジラの骨から作られた最古の道具の証拠
Nature Communications
2025年5月28日
人類は2万年前までクジラの骨から道具を作っていたかもしれないことを報告する論文が、オープンアクセスジャーナルNature Communications に掲載される。これらの道具の発見は、初期の人類によるクジラ遺骸の利用に関する理解を深めるだけでなく、古代のクジラ生態系を垣間見る手がかりとなる。
沿岸地域に住んでいた古代人類は、クジラを資源として利用していた可能性が高い。しかし、先史時代の沿岸遺跡は脆弱で海面上昇の影響を受けやすく、人類と海洋哺乳類の過去の相互作用を再構築するのは困難である。
Jean-Marc Pétillonら(トゥールーズ・ジャン・ジョレス大学〔フランス〕)は、ビスケー湾(Bay of Biscay)周辺の遺跡から発掘された83点の骨製工具と、スペインのサンタ・カタリーナ洞窟(Santa Catalina Cave)から追加で発見された90点の骨を分析した。著者らは、質量分析法と放射性炭素年代測定法を用いて、標本の分類と年代を特定した。その結果、骨は少なくとも5種の大型クジラに由来し、最も古いものは約1万9,000–2万年前に遡るもので、人類がクジラの遺骸を道具として利用した最も古い証拠の一つだと著者らは指摘している。同定された種には、マッコウクジラ(sperm whales)、ナガスクジラ(fin whales)、シロナガスクジラ(blue whales)、およびセミクジラ(right whales)またはホッキョククジラ(bowhead whales)〔この技術では区別できない2種〕が含まれる。これらの種は、現在もビスケー湾に生息している。著者らはまた、現在主に北太平洋と北極海に分布するコククジラ(grey whales)の遺骸も同定した。クジラの骨から作られた道具の化学データは、クジラの食性習慣が現在の種とやや異なっていたことを示唆しており、行動や環境の変化を暗示している。
これらの発見は、特に沿岸地域における人類によるクジラの遺骸の最も古い利用に関する新たな証拠を提供し、過去2万年間におけるクジラの生態系の変化を明らかにしている。
- Article
- Open access
- Published: 27 May 2025
McGrath, K., van der Sluis, L.G., Lefebvre, A. et al. Late Paleolithic whale bone tools reveal human and whale ecology in the Bay of Biscay. Nat Commun 16, 4646 (2025). https://doi.org/10.1038/s41467-025-59486-8
doi:10.1038/s41467-025-59486-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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