Research Press Release

気候変動:ペンギンの糞が南極の気候変動の影響を軽減するかもしれない

Communications Earth & Environment

2025年5月23日

ペンギンの糞から放出されるアンモニアは、雲の形成を促進することで、南極の気候変動の影響を軽減するかもしれないことを報告する論文が、オープンアクセスジャーナルCommunications Earth & Environment に掲載される。この結論は、アデリーペンギン(Pygoscelis adeliae)のコロニーの風下で実施された測定結果に基づいている。

南極の生態系は、人間による気候変動の影響を受けて深刻な圧力に直面しており、最近では海氷の面積が減少傾向にある。ペンギンは南極生態系の重要な種であり、進行中の氷の減少によってその生息地が脅かされている。また、他の海鳥と共に、地域におけるアンモニアの主要な排出源でもある。アンモニアは、硫黄を含むガスと反応してエアロゾルの生成を促進する可能性がある。エアロゾルは、水蒸気が凝縮する表面を提供する粒子であり、これが雲の形成につながる。これらの雲は、大気中の断熱層として機能し、表面温度の低下を助けることで海氷の面積に影響を与えることがある。しかし、ペンギンと南極気候の具体的な相互作用は現在、十分に理解されていない。

Matthew BoyerとMikko Sipiläら(ヘルシンキ大学〔フィンランド〕)は、2023年1月10日から3月20日まで、南極のマランビオ基地(Marambio Base)付近の地点で空気中のアンモニア濃度を測定した。著者らは、約8キロメートル離れた6万羽のアデリーペンギンのコロニーの方向から風が吹くと、アンモニア濃度が最大13.5 ppb(parts per billion)まで上昇し、これは基準値(10.5 ppt〔parts per trillion〕未満)の1,000倍を超えるものであった。2月末にペンギンが群れを離れて移動した後も、コロニーに残されたペンギンの糞からガスが放出され続けたため、アンモニア濃度は基準値の100倍を超える状態が続いた。

アンモニア濃度の増加がエアロゾル粒子濃度に影響を与えたことを確認するため、著者らは、1日の間に複数の追加の大気測定を実施した。ペンギンコロニーから風が吹く方向で、測定地点でのエアロゾル粒子の数とサイズが急激に増加し、著者らはその後(風向きが変わってから約3時間後)、増加したエアロゾル粒子濃度によるものと考えられる霧の発生を観察した。

これらの結果は、ペンギンの糞が、ペンギンの生息地である南極の気候変動の影響を軽減する役割を果たしているかもしれないことを示唆している。著者らは、この研究が、海鳥とその生息地を気候変動の影響から保護することの重要性と利益を強調していると述べている。

Boyer, M., Quéléver, L., Brasseur, Z. et al. Penguin guano is an important source of climate-relevant aerosol particles in Antarctica. Commun Earth Environ 6, 368 (2025). https://doi.org/10.1038/s43247-025-02312-2

シュプリンガーネイチャーは、国連の持続可能な開発目標(SDGs;Sustainable Development Goals)、および当社のジャーナルや書籍で出版された関連情報やエビデンスの認知度を高めることに尽力しています。本プレスリリースで紹介する研究は、SDG 13(気候変動に具体的な対策を)およびSDG 15(陸の豊かさも守ろう)に関連しています。詳細は、「SDGs and Springer Nature press releases (https://press.springernature.com/sdgs/24645444 )」をご覧ください。
 

doi:10.1038/s43247-025-02312-2

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

「注目のハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度