微生物学:効果的な新しい抗マラリア薬は寄生生物を標的とする
Nature
2025年5月22日
蚊の体内にあるマラリアを引き起こす寄生生物を直接標的とし、死滅させることでマラリアの伝播を抑制する新規化合物について報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。これらの抗マラリア薬は、蚊帳に適用することで、現在の殺虫剤ベースの対策に代わる経済的で持続可能な代替手段を提供する。
毎年、50万人以上がマラリアで命を落としている。殺虫剤処理された蚊帳は、マラリアの症例を大幅に減少させたが、殺虫剤耐性の広まりにより、その効果の持続性が脅かされている。人間においてマラリアの90%を引き起こす寄生生物Plasmodium falciparum(熱帯熱マラリア原虫)を蚊内で標的とし、抗マラリア薬で攻撃することが、この課題に対処する有効な方法となりうることが、先行研究で示唆されている。
このアプローチをさらに探求するため、Alexandra Probstら(ハーバードT.H. Chan公衆衛生大学院〔米国〕)は、抗マラリア薬の標的となる寄生生物の遺伝子の最も重要な部分を特定した。人体用として開発中のものを含む大規模な抗マラリア化合物ライブラリーを構築した後、著者らは、蚊内のマラリア寄生生物の発育を最も効果的に阻害する22の化合物を同定し、試験した。発見された化合物は、いずれも非常に単純で、合成が容易かつ安価であった点が特徴的である。最も効果的な化合物は、化合物を含浸した蚊帳のような素材と接触後6分以内に、蚊内の寄生生物を100%死滅させた。この効果は、実験室で培養した殺虫剤耐性蚊での試験でも確認された。また、蚊帳中の化合物の効果は1年間持続し、その長期的な有用性と強力な効果が実証された。
著者らは、臨床で使用されている抗マラリア薬と標的を共有しない化合物の研究が今後必要だと述べている。さらに、抗マラリア薬処理ネットを現在使用されている殺虫剤処理ネットと組み合わせて試験し、その補完的な効果を確認する必要があると指摘している。また、著者らは、今回のこれまで未活用のアプローチが、特に殺虫剤耐性に対処する上で、人間のマラリア感染例を減少させるかもしれないと結論付けている。
- Article
- Open access
- Published: 21 May 2025
Probst, A.S., Paton, D.G., Appetecchia, F. et al. In vivo screen of Plasmodium targets for mosquito-based malaria control. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09039-2
doi:10.1038/s41586-025-09039-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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