社会科学:人間の繁栄の測定
Nature Mental Health
2025年4月30日
世界中の異なる文化や社会に属する人々が繁栄(flourishing)しているかどうか——つまり、個人の生活のあらゆる側面が良好な状態にあるかどうか——に関する洞察が、Global Flourishing Studyによる一連の論文で示される。これらの論文は、ネイチャーポートフォリオ、BMC、およびシュプリンガーのジャーナルにわたって掲載される。この研究結果は、6つの大陸にまたがる、文化的にも地理的にも多様な22カ国の20万人以上の人々の分析に基づいている。
近年、心理学、経済学、教育学、および公共政策などの分野の研究者から、人間が繁栄しているかどうかという概念への関心が高まっている。しかし、繁栄という概念は広範であり、この概念に関する研究は主に西半球の集団や視点に焦点を当ててきた。そこで、ウェルビーイング(well-being)の分布と決定要因を研究し、一般的な「繁栄」に関する知識を深め、どのようなパターンが文化的に特殊で、どのパターンがより普遍的であるかを明らかにするために、Global Flourishing Studyが設立された。この研究では、2022年から2027年までの5年間、毎年世界22カ国の20万人以上のアンケートデータを収集し、健康、幸福、意味、性格、人間関係、および経済的安定などの要素を含む繁栄の分析を行っている。
Nature Mental Health にオープンアクセスで掲載される主要な論文において、Tyler VanderWeele(ハーバード大学、米国)とByron Johnson(ベーラー大学、米国)らは、複合的な繁栄指数と、年齢、性別、学歴、配偶者の有無、雇用、宗教的所属・礼拝出席、移民状況、および人種・民族などの多くの人口統計学的特徴との関係を報告している。その結果、ブラジル、オーストラリア、およびアメリカなどでは、年齢が上がるにつれて繁栄度が上昇するのに対し、ポーランドやタンザニアなどでは、年齢が上がるにつれて繁栄度が低下することがわかった。日本やケニアを含むいくつかの国では、年齢とともに繁栄のパターンがU字型を示し、生涯を通じてウェルビーイングが下がったり上がったりすることが見られる。しかし、VanderWeeleらは、22カ国すべての回答を統合したところ、18–49歳の繁栄指標は、人生の後半に上昇するまではほぼ横ばいで推移していることがわかった。このことは、この分野における過去の調査結果と比較すると、世界中の多くの若年層が、以前の世代よりも不遇であることを示しているのかもしれない。
著者らが分析した調査回答によると、多くの国では男女間の繁栄に実質的な差は見られなかったが、ブラジルでは男性が女性よりも繁栄しているのに対し、日本では女性が男性よりも繁栄していることがわかった。同様に、調査回答から、多くの国で既婚者の方が独身者よりも繁栄度が高かった。しかし、インドとタンザニアでは逆であった。香港とオーストラリアを除くほとんどの国では、学歴が高い人ほど繁栄度が高いと回答した。VanderWeeleらはまた、幼少期に貧困、虐待、および不健康を経験した回答者は、成人後の繁栄度が低いことも発見した。例外はドイツで、幼少期の健康状態が悪いと、健康状態が良い場合に比べて、成人後の繁栄度が高いことが予測された。
著者らは、Global Flourishing Studyの限界として、低所得国のデータが収集されていないことを認めている。また、VanderWeeleらは、繁栄に関するさまざまな側面における国ごとの違いは、調査の翻訳や、調査されたトピックに対する文化的理解の違いによるものである可能性も指摘している。このシリーズの他の論文では、社会人口統計学的グループや国による楽観主義の違い、経済的ウェルビーイングの小児期の予測因子、神々や死後の生命に対する信仰の違い、および社会的信頼などについての洞察を明らかにしている。
「人々の繁栄を支援するための政策を正しい軌道に乗せるために、政府は国民のウェルビーイングに関する確かなデータを収集するシステムを構築することが不可欠です。集団を追跡し、繁栄の決定要因を理解するためには、厳密な調査も求められます。これらはいずれも容易なことではありません」と、著者のVanderWeeleとJohnsonは、Natureに掲載されるCommentの中で述べている。「すべての社会は、それぞれの国や文化の優先事項に焦点を当てた、質の高い繁栄データの収集が、世界中で必要とされています。私たちはここに、各国がこの取り組みを進めていくことを呼びかけます。」
- Article
- Open access
- Published: 30 April 2025
VanderWeele, T.J., Johnson, B.R., Bialowolski, P.T. et al. The Global Flourishing Study: Study Profile and Initial Results on Flourishing. Nat. Mental Health (2025). https://doi.org/10.1038/s44220-025-00423-5
コレクションのURL:Global Flourishing Study – Wave I
doi:10.1038/s44220-025-00423-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
ゲノミクス:古代 DNA がピクーリス・プエブロ族の人口史を補完するNature
-
環境科学:海洋における地下マイクロプラスチックの分布Nature
-
生態学:温暖化する北極圏における植物構成の変化Nature
-
社会科学:人間の繁栄の測定Nature Mental Health
-
健康:気候変動は抗菌薬耐性の世界的負担を増加させるかもしれないNature Medicine
-
動物学:雌のボノボは団結し、雄に対して優位性を発揮するCommunications Biology