微生物学:ヒトマイクロバイオームに関する言説には、証拠が欠けている
Nature Microbiology
2023年8月1日
Microbiology: Human microbiome statements lack evidence
ヒトのマイクロバイオームについて言われていることには確固たる証拠に基づかない不正確なものが含まれると論じるPerspectiveが、Nature Microbiologyに掲載される。著者らは、ヒトマイクロバイオームに関し、虚構や誤解がそのままずっと残っていたり、あるいは新たに生じたりしていると強調し、そういった事実関係の誤りについて概説している。
ヒトの腸内微生物相、特にこの複雑な微生物群集と健康や病気との関連については、研究が激増し、人々の関心が非常に高まっている。このような強い関心が誇大な宣伝につながり、一部の誤解を定着させてしまっている。微生物相について繰り返し語られているうちに、裏付けとなる強力な証拠がなくても、また元々の情報の出どころが曖昧なままでも、語られたことは事実であると考えられるようになってしまう。
Alan WalkerとLesley Hoylesは、ヒトマイクロバイオームについての記述に広く見られる虚構や誤解の分かりやすい12の例を挙げて、注意するよう呼び掛けている。虚構の中には、微生物相という研究分野は新しいという見方(ヒトに関連する微生物の最初の研究は、実際には何百年も前に行われている)や、ジョシュア・レーダーバーグが「マイクロバイオーム」という単語を新しく作ったという思い込みなどがある。微生物相の記述に繰り返し見られるのが、「微生物相はヒト細胞を数で大きく上回り、その比率は10:1にもなる」というものだが、この話の起源は1970年代に行われた非常に大ざっぱな計算であり、実際の比率はほぼ1:1に近い。著者らは、今後の研究により深刻な影響を及ぼす可能性のある思い込みとして、「腸内微生物の大半は実験室では培養できない」という裏付けのない見方や、予備的実験で明らかにされたがその後の研究で再現されていない微生物相と病気との関連を無批判に繰り返し述べること、などを挙げている。
著者らは、虚構や誤解がそれほど大したことのないものであっても、それをきちんと認識していくことが、非生産的な研究プロジェクトを避け、批判的思考を促し、マイクロバイオーム科学への人々の信頼を維持するために重要であると主張している。
doi: 10.1038/s41564-023-01426-7
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