Research Press Release
DNA損傷応答を微調整して生き残る細胞
Nature Cell Biology
2011年2月21日
DNAとタンパク質からなる不活性な複合体の特別な部分が、異常が生じた細胞が生き残るための巧妙な仕組みとして働いている可能性が出てきた。この知見はがんにかかわりがあるかもしれない。
DNA損傷は細胞死のきっかけとなり、細胞分裂が停止するが、こういう細胞は休眠状態となって生き続けており、この状態は細胞老化と呼ばれる。老化した細胞の特徴はSAHF(Senescence-associated heterochromatic foci)と呼ばれる大型のDNA・タンパク質複合体が存在することだが、この複合体の機能はわかっていなかった。
F d’Adda di Fagagnaたちは、SAHFが細胞のDNA損傷応答のレベルを制御していることを見いだした。SAHFが存在すると、損傷を受けたDNAに対する応答が致死的レベル以下に低下し、細胞は分裂を停止して老化するが、死ぬことはない。その結果、こうした細胞は時間が経つうちにさらに別の変化を起こして、それによって老化による増殖停止を乗り越えて細胞分裂を再開できるようになり、それががんにつながる可能性が考えられる。
SAHFがヒトがんで見つかり、SAHFをがん細胞から除去する化合物はDNA損傷応答も増強し、細胞死を増やすのは、この考え方と一致する。著者たちは、これらの知見はがん研究にとって重要であり、治療に使えるかもしれないと考えている。
doi:10.1038/ncb2170
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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