材料科学:人類の食生活とともに変化するエナメル質構造
Nature
2026年6月4日
過去200万年にわたり、人間の食生活が肉や農産物へと移行するにつれ、歯のエナメル質の構造はナノスケールで変化したことを報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。この発見は、エナメル質の耐性を支える可能性のあるメカニズムを明らかにしており、生物にヒントを得た材料の強度と回復力を高めるうえで示唆を与えるかもしれない。
エナメル質の厚さや形状は、食生活の変化とともに進化してきたことが示されている。エナメル質は、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite)と呼ばれる鉱物の長いナノ結晶(幅約50~70ナノメートル)から構成されており、その配向は変化しうる。しかし、こうした構造変化が食生活やエナメル質の耐性とどのように関連しているかは、十分には解明されていない。
Pupa Gilbertら(ウィスコンシン大学マディソン校〔米国〕)は、古代の霊長類や人類、そして現代人を含む、約1800万年にわたる歯のサンプルを分析した。著者らは、ヒト属の進化における過去176万年の間に、肉や農業産物が主要な食料源となるにつれて、エナメル質ナノ結晶の配向不一致が増加してきたことを発見した。この変化は、1万2000年前にヨーロッパで始まった穀物中心の農業の拡大にともなう食生活の変化において特に顕著であった。一方で、産業革命期において配向不一致がさらに増加した証拠は見つからなかったものの、虫歯や歯列の乱れの増加は、工業化された食生活の影響として記録されている。ヒト以外の類人猿やサル類の歯を分析したところ、おもに果実を摂取する種では結晶方位のずれが最も小さく、種子を摂取する種では最も大きいことがわかった。
著者らは、ナノ結晶の結晶方位のずれが、肉や種子といった硬い食物に対する歯の耐性に寄与している可能性があると結論づけている。著者らは、エナメル質の結晶方位のずれがその耐性に寄与しており、これが生体模倣材料の合成に影響を与える可能性があると示唆している。
- Article
- Open access
- Published: 03 June 2026
Gilbert, P.U.P.A., Green, D.R., Mahoney, P. et al. Enamel nanocrystal misorientation increased with meat-eating and agriculture. Nature 654, 76–84 (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10583-8
News & Views: Nanostructure of tooth enamel casts light on dietary shifts as humans evolved
https://www.nature.com/articles/d41586-026-01579-5
doi:10.1038/s41586-026-10583-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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