生体医工学:皮膚を透過するポリマーが動物にインスリンを送達
Nature
2025年11月20日
皮膚を通じたインスリン送達を可能にする化合物が、マウスおよびミニブタで実証された。Nature にオープンアクセスで掲載されるこの発見は、糖尿病管理における注射の代替手段となり得る可能性を示唆するとともに、さらにほかの治療薬への応用拡大も期待される。
皮膚からの薬物送達は、その利便性と患者の遵守性から低分子化合物に広く用いられている。しかし、皮膚の構造はタンパク質やペプチドなどの高分子化合物にとって障壁となる。マイクロニードル、超音波、および化学薬品など皮膚透過性を高める既存の手法は、侵襲的であり、皮膚の健全性を損なうため、臨床応用が制限されている。
Rongjun Chen(インペリアル・カレッジ・ロンドン〔英国〕)、Youqing Shen、Jiajia Xiang、Ruhong Zhou(浙江大学〔中国〕)らは、ポリ[2-(N-オキシド-N,N-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート](poly[2-(N-oxide-N,N-dimethylamino)ethyl methacrylate]〔OP〕)と呼ばれる高速に皮膚を透過するポリマーを報告した。これは、皮膚のpH勾配変化との相互作用により、皮膚の異なる層を貫通できる。インスリンと組み合わせた場合、OPは皮膚を通過して全身循環へ輸送され、肝臓や骨格筋などの主要な血糖調節組織に蓄積することを促進する。糖尿病マウスおよびミニブタにOP–インスリンを皮膚に塗布したところ、1~2時間以内に血糖値を正常範囲まで低下させ、これは注射インスリンと同等の効果を示し、最大12時間にわたり正常値を維持した。皮膚細胞、血液細胞、そして肝臓や腎臓を含む臓器機能に有害な影響は認められなかった。
本研究は、OPが皮膚構造を損なうことなく透過性を達成し、OPと結合したインスリンが生物学的活性を維持することを実証した。長期安全性、用量制御、および臨床応用の可能性の評価にはさらなる調査が必要なものの、この戦略はほかの生体高分子を非侵襲的に送達する新規かつ汎用性の高いプラットフォームを提供するかもしれない。
- Article
- Open access
- Published: 19 November 2025
Wei, Q., He, Z., Li, Z. et al. A skin-permeable polymer for non-invasive transdermal insulin delivery. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09729-x
Nature Podcast: Insulin cream offers needle-free option for diabetes
https://www.nature.com/articles/d41586-025-03803-0
doi:10.1038/s41586-025-09729-x
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