細胞生物学:ホッキョククジラの長寿の謎が解明される
Nature
2025年10月30日
ホッキョククジラ(bowhead whales)の驚くべき長寿は、DNA変異を修復する能力が高まっているためかもしれないことを報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。この発見は、老化と長寿のメカニズムに関する新たな知見をもたらすものとなり得る。
ホッキョククジラは、最大寿命が200年を超え、体重が80,000キログラムを超えることも珍しくない、現存する哺乳類の中で最大級かつ最長寿の種の一つである。その驚異的な体長と長寿からすれば、DNA変異の蓄積によってがん発症リスクが高まるはずである。しかし、既存のデータはそれを裏付けておらず、このパラドックスを可能にする仕組みが科学者の関心を集めてきた。
Jan Vijg(アルバート・アインスタイン・カレッジ・オブ・メディスン〔米国〕)、Vera Gorbunovaらは、発がん性刺激(紫外線など)を与えた際に、ホッキョククジラの細胞ががん細胞へ変異する確率を調査した。クジラの細胞は、ヒト線維芽細胞(結合組織を作る細胞)よりも少ない変異で悪性化する可能性を示した。しかし、クジラの細胞はヒト細胞よりも変異数が少なく、DNA損傷を受けやすいにもかかわらず修復が行われていることを示唆している。ホッキョククジラの細胞におけるDNA修復プロセスの分析では、二本鎖切断修復の速度と質が向上していることが判明した。著者らは、クジラにおいてDNA修復に関連するタンパク質を同定し、このタンパク質の過剰発現がヒト細胞のDNA修復を促進し、ショウジョウバエの寿命を延長することを発見した。
著者らは、ヒト線維芽細胞(がんの大半が発生する上皮細胞ではなく)を用いたことが本研究の主要な限界である可能性を指摘している。しかし、これらの知見は、強化されたDNA修復機構がホッキョククジラの特異的な長寿に寄与しているという仮説を支持するものである。
- Article
- Open access
- Published: 29 October 2025
Firsanov, D., Zacher, M., Tian, X. et al. Evidence for improved DNA repair in long-lived bowhead whale. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09694-5
Nature Podcast: Bowhead whales can live for more than 200 years — this protein might be why
https://www.nature.com/articles/d41586-025-03551-1
News: This whale lives for centuries: its secret could help extend human lifespan
https://www.nature.com/articles/d41586-025-03511-9
doi:10.1038/s41586-025-09694-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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