環境:リチウムイオン電池リサイクルのための国際的な枠組み
Nature
2025年10月23日
世界的な協力を含む循環型経済戦略を採用することで、リチウムイオン電池のサプライチェーンにおける炭素排出量を最大約35%削減できるかもしれないことを報告する論文が、Nature に掲載される。この研究では、電池サプライチェーンの各段階における炭素排出量を分析し、排出削減が可能なポイントを特定している。
リチウムイオン電池は、再生可能エネルギーへの移行において有望な手段であり、電気自動車など様々な用途で使用されている。しかし、リチウムイオン電池の製造と廃棄は、持続可能な代替手段としての利点を相殺するほどのカーボンフットプリントを生み出す可能性がある。リチウムイオン電池のサプライチェーンは、国境を越えた生産と貿易の複雑なネットワークであり、このネットワークを特徴づけることが排出削減策の発見に不可欠である。
Yufeng Wuら(北京工業大学〔中国〕)は、リチウムイオン電池サプライチェーンの炭素排出量をモデル化し、排出量の最大シェアが鉱物採掘に由来することを発見した。これは、電池生産における総排出量の38.52%を占める。著者らは「価値―排出量のパラドックス(value–emission paradox)」を指摘している。すなわち、収益の少ないサプライチェーンの段階ほど、より多くの炭素排出量を生み出す傾向があるという。例えば、電池生産用鉱物の採掘は、全排出量の38.52%を占める一方、電池の総価値の18.78%しか生み出さない。一方、電池用カソードの生産は、電池経済価値の42.56%を創出する一方で、全排出量の34.82%を発生させる。しかし、循環型経済を通じた金属リサイクル(国際協力と地域固有の規制・政策の併用が必須)により、リチウムイオン電池生産の排出量は世界平均で35.87%削減できると見積もられている。地域別の削減率は、米国39.14%、欧州連合37.28%、および中国42.35%となる。
著者らは、この枠組みが不平等を招く可能性を指摘している。一部の国々は、他国よりもリチウムイオン電池リサイクルからより多くの経済的利益を得るためである。したがって、この循環型経済は国家間の強固な合意の上に構築されなければならない。
- Article
- Published: 22 October 2025
Zhai, M., Wu, Y., Tian, S. et al. A circular economy approach for the global lithium-ion battery supply chain. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09617-4
doi:10.1038/s41586-025-09617-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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