がん:呼吸器感染症が乳がんの肺転移を促進するかもしれない
Nature
2025年7月31日
呼吸器ウイルスが乳がん細胞の転移を促進し、マウスモデルにおいて肺での増殖を引き起こすことを報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。これらの結果は、人間の観察データによって支持されている。この研究は、感染症とがん転移の関連性を明らかにしている。
乳がんは女性で最も多く診断されるがんである。初期の寛解後、がん細胞は数年休眠状態を維持し、その後転移(肺や他の臓器)により再発を引き起こすことがある。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を含む呼吸器ウイルス感染は炎症を引き起こし、これが転移に影響を与えるプロセスを誘発するかもしれない。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最初の2年間でがん死亡率が増加したことから、James DeGregoriら(コロラド大学〔米国〕)は、マウスモデルにおいてインフルエンザウイルスとSARS-CoV-2感染が乳がんの転移に与える影響を調査した。著者らは、これらの感染が肺の乳がん細胞の休眠状態を短縮することを発見した。これらの細胞は、感染後数日で増殖し、2週間以内に転移性がん病変の拡大を引き起こした。著者らは、この効果に炎症経路が関与していることを示唆している。
著者らはまた、SARS-CoV-2陽性のがん患者ががん関連死亡リスクが高いかどうかを調査した。著者らは、英国バイオバンク(UK Biobank;4,837名、全がんタイプ)とフラットアイアンヘルス(Flatiron Health;乳がん患者36,845名)のデータベースからデータを分析した。バイオバンクのグループでは、SARS-CoV-2感染と死亡リスクとの関連性が認められ、SARS-CoV-2陽性患者は陰性患者に比べてがん関連死亡リスクが2倍に増加した。フラットアイアンのグループでは、SARS-CoV-2感染は肺の転移性疾患のリスクが40%以上増加するとの関連性が認められた。
これらの結果は、呼吸器ウイルス感染ががん再発のリスクを増加させるメカニズムを明らかにし、呼吸器ウイルス感染に関連する転移性進行のリスク増加に対処するための戦略の必要性を強調している、と著者らは結論づけている。
- Article
- Open access
- Published: 30 July 2025
Chia, S.B., Johnson, B.J., Hu, J. et al. Respiratory viral infections awaken metastatic breast cancer cells in lungs. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09332-0
doi:10.1038/s41586-025-09332-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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