Research Press Release

惑星科学:太陽系最大の衝突から得られた知見

Nature

2025年7月10日

中国の嫦娥(じょうが)6号(Chang’e-6)ミッションによって採取された28億年前の月のサンプルの最新の分析によって、月の形成と巨大衝突の影響に関する新たな洞察が加わった。今週のNature にオープンアクセスで掲載されるこの研究結果は、嫦娥6号が採取した岩石を生み出した月の深部には、すでに大量の溶融物が抽出されていたことを示している。

月の観測によって、月の裏側と表側では、地殻の厚さ、火山活動、および岩石の化学的性質に違いがあることが明らかになっている。しかし、これらの違いの起源は議論されてきた。2024年、中国の嫦娥6号が月の裏側にある南極エイトケン盆地(South Pole–Aitken basin)から玄武岩(溶岩が冷えてできた岩石)のサンプルを回収し、科学者たちは両半球の違いを探ることができるようになった。

Wei Yangら(中国科学院〔中国〕)は、嫦娥6号が月の裏側の南極エイトケン盆地から採取した火山岩のサンプルの同位体組成を分析し、月の裏側のアポロ計画で得られたサンプルと比較した。著者らは、南極エイトケン盆地の岩石が月の裏側のマントルといくつかの特徴を共有していることを発見したものの、溶融物がすでに枯渇した月の内部領域を採集したことを明らかにしている。これらの特性は、玄武岩が月の初期のマグマオーシャン段階から溶融が枯渇した深部(マントル)岩石から形成された可能性、および/または南極エイトケン衝突イベントでさらに溶融した可能性を示唆している。著者らは、嫦娥6号ミッションによって回収されたサンプルは、月の初期のマントル形成を研究する手段を提供するものであり、さらに研究を進めることで、月の表側と裏側の違いの根底にあるプロセスについて、より深い洞察が得られるかもしれないと結論づけている。

Zhou, Q., Yang, W., Chu, Z. et al. Ultra-depleted mantle source of basalts from the South Pole–Aitken basin. Nature 643, 371–375 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09131-7
 

doi:10.1038/s41586-025-09131-7

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