惑星科学:月内部の非対称性を示す証拠
Nature
2025年5月15日
月の表側と裏側の内部に差異が存在することが報告する論文が、今週のNature にオープンアクセスで掲載される。米国航空宇宙局(NASA)の月探査機Gravity Recovery and Interior Laboratory(GRAIL)ミッションの重力場データに基づく発見は、おそらく月の内部に温度変化が存在することを示している。このような内部での非対称性は、月面の外観のコントラストや、月の表側と裏側での火山活動の違いを説明できるかもしれない。
月の表側(地球に向いている側)と裏側では、地質構造や火山活動、地殻の厚さに顕著な違いがある。月の表側は暗く、溶岩が多い(火山活動が活発であることを示している)のに対し、裏側は起伏が激しい。これらの違いは、月の内部構造の違いによって説明できるという仮説を立てた研究者もいるが、観測的な証拠は不足していた。
Ryan Parkら(ジェット推進研究所〔米国〕)は、NASAのGRAILミッションのデータを分析し、衛星の内部構造を知る手がかりとなる、地球を周回する月の重力応答を詳細に調べた。その結果、月のマントルが変形する能力は、月の裏側と表側で2–3%の差があることがわかった。Parkらは、月の構造をモデル化し、この数値は両半球間で100–200ケルビンものマントル温度の差によって説明できることを突き止めた。著者らは、この温度差は月の表側のトリウムとチタンの放射性崩壊によって維持されている可能性があり、これは30–40億年前に月の表側を形成した火山活動の名残であるかもしれないと仮定している。
著者らは、月の内部を探査するために使用された方法は、着陸型の観測機が不要という点で特に有用であることから、火星、エンケラドス(Enceladus)、およびガニメデ(Ganymede)などの他の惑星体の構造の違いを測定するために使用できるかもしれないと指摘している。
- Article
- Open access
- Published: 14 May 2025
Park, R.S., Berne, A., Konopliv, A.S. et al. Thermal asymmetry in the Moon’s mantle inferred from monthly tidal response. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08949-5
doi:10.1038/s41586-025-08949-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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