Research Press Release

がん:乳がん治療薬の臨床試験で生存率の向上が示されたものの、がんの消失は限定的であった

Nature Communications

2025年5月14日

標的抗がん剤オラパリブ(Olaparib)を化学療法に時差的に追加しても、手術時の残存腫瘍量の改善にはつながらないものの、生殖細胞系列BRCA(BReast CAncer gene)変異トリプルネガティブ乳がん患者の生存期間を延長する可能性があることが、第II/III相試験で報告され、今週オープンアクセスジャーナルNature Communications に論文が掲載される。これらの知見は、患者ケアの向上にこのレジメンが寄与するかどうかを評価するため、さらなる研究の必要性を示唆している。

ポリADP -リボースポリメラーゼ(PARP:Poly-ADP ribose polymerase)阻害剤(標的抗がん剤の一種)と化学療法は、生殖細胞系列BRCA変異型(gBRCAm)乳がん患者、特に第一選択薬として投与された場合、いずれも有効な治療法である。これらの治療薬は、がん細胞が非がん細胞よりも修復能力の低いDNA損傷を誘発することによって作用する。この2つの治療薬を併用するとDNA損傷は増加するが、骨髄毒性も引き起こすため、臨床応用には限界があった。 

Jean Abrahamら(ケンブリッジ大学〔英国〕)は、オラパリブ(PARP阻害剤)の投与とカルボプラチンベース(carboplatin-based)の化学療法との間に48時間のギャップ(間隔)を設けることで、抗腫瘍活性を維持しながら毒性のリスクを低減する、最適化された治療スケジュールを提案している。研究者らは、第II/III相PARTNER臨床試験の結果を報告している。この試験では、早期gBRCAmトリプルネガティブ乳がん患者84人が、ネオアジュバント標準化学療法(術前補助化学療法)またはオラパリブとカルボプラチンの併用療法を、ギャップありまたはギャップなしで受けた。新しいスケジュールは安全で忍容性が高いと判断されたが、病理学的完全奏効率(pathological complete response rate;手術でがん細胞が完全に除去されること)には改善がみられなかったため、予定されていた中間解析の一環として、早期に募集が中止された。しかし、ギャップスケジュール併用療法を受けた患者は、36ヵ月後の全生存期間が化学療法単独療法を受けた患者より延長しており、著者らはさらなる調査が必要であると結論している。

Abraham, J.E., O’Connor, L.O., Grybowicz, L. et al. Neoadjuvant PARP inhibitor scheduling in BRCA1 and BRCA2 related breast cancer: PARTNER, a randomized phase II/III trial. Nat Commun 16, 4269 (2025). https://doi.org/10.1038/s41467-025-59151-0
 

doi:10.1038/s41467-025-59151-0

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