宇宙での健康:筋肉に抵抗を与える運動が宇宙飛行中の骨減少の抑制に役立つ可能性
Scientific Reports
2022年7月1日
3か月以上にわたる宇宙飛行を終えて帰還した宇宙飛行士の場合、地球上での1年間の生活を経ても骨が十分に回復していないことを示す徴候が見られることがある。これに対しては、宇宙飛行中に抵抗運動(筋肉に抵抗を与える運動)の回数を増やすことが、骨減少の抑制に役立つ可能性のあることが明らかになった。今回、さまざまな国の宇宙飛行士17人を対象とした小規模な研究が行われ、帰還から1年後の時点で、脛骨が部分的に回復したが、解消されなかった骨減少があり、通常の加齢に関連した骨減少の10年分に相当することが判明した。今回の研究を報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。
今回、Steven Boydたちの研究チームは、17人の宇宙飛行士(男性14人、女性3人)の宇宙飛行前と地球への帰還時と回復期(6か月後と12か月後)に脛骨(膝から足首の間にある2本の骨のうちの内側の太い骨)と橈骨(前腕にある2本の長い骨のうちの親指側の骨)の骨スキャンを実施し、骨折に対する骨の抵抗力(破壊荷重)、骨組織中の骨塩量と骨組織厚を算出した。また、宇宙飛行中と飛行後に宇宙飛行士が実行した運動トレーニング(サイクリング、トレッドミル走、デッドリフトなど)の記録も作成された。
宇宙飛行から1年後の16人の宇宙飛行士の測定結果の中央値は、脛骨の回復が十分でないことを示した。脛骨の破壊荷重(骨強度の指標)の中央値は、飛行前の1万579ニュートンから1年後には152.0ニュートン減少して1万427ニュートンになった。また、総骨塩密度は、飛行前の1立方センチメートル当たり326.8 mgに比べて、1立方センチメートル当たり4.5 mg低下した。回復期(12か月後)の16人の宇宙飛行士の前腕の測定値は、飛行前と同じだった。
また、Boydたちは、6か月以上のミッションに参加した宇宙飛行士(合計8人)について、骨の回復が大幅に低下するという観察結果を示している。6か月以上のミッションに参加した宇宙飛行士は、1年後の脛骨の破壊荷重の中央値が、飛行前と比較して333.9ニュートン減少した。一方、6か月未満のミッションに参加した宇宙飛行士(合計9人)の場合は、破壊荷重が79.9ニュートン減少した。脛骨の総骨塩密度にも同様の差が認められた。以上の結果を総合すると、合計9人(長期ミッションの7人を含む)の宇宙飛行士の脛骨の総骨塩密度は、12か月後でも十分に回復しないことが判明した。
全ての宇宙飛行士の中で、飛行前の個々のトレーニングと比べて、飛行中にデッドリフト運動のトレーニングを完了した回数の多かった者は、脛骨の骨塩密度が回復していた。Boydたちは、現在使用されている運動ルーチンだけでなく、衝撃の強い動的荷重を足に負荷する抵抗運動の一種である跳躍運動を行うことが、宇宙飛行ミッションで骨減少を予防し、骨形成を促進するために役立つ可能性があるという考えを示している。
doi:10.1038/s41598-022-13461-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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