Research Press Release

生物多様性:トラやジャガーの生息地を脅かす水力発電ダム

Communications Biology

2021年12月10日

水力発電ダムを原因とする陸地の浸水は、トラとジャガーの生息地の世界的な喪失を促進する重要な要因であることを報告する論文が、Communications Biology に掲載される。

水力発電ダムは、流水(陸地での洪水によって形成された貯水池に蓄えられることが多い)のエネルギーを電気に変換する。これまでの研究では、水力発電ダムの建設がトラやジャガーの生息地の脅威となる可能性のあることが示唆されているが、その脅威の大きさは明らかでない。

今回、Ana Filipa PalmeirimとLuke Gibsonは、データベース、既発表論文、報告書を使って、トラが生息する国々(インド、インドネシアなど)とジャガーが生息する国々(ブラジル、ボリビアなど)における既存の水力発電ダムと計画中の水力発電ダムを特定した。そして著者たちは、トラやジャガーの生息地の規模と位置の公開データとトラやジャガーの個体群の大きさや分布の推定値をダムの位置と比較することによって、ダムや貯水池の建設がこれらの種に及ぼす潜在的影響を計算した。

その結果、トラとジャガーの生息地を横切っている既存のダム585か所と計画中のダム470か所が特定された。そして、現在の水力発電ダムの貯水池を作るために、トラの生息地1万3750平方キロメートルとジャガーの生息地2万5397平方キロメートルが浸水していたことが明らかになった。そのために世界中の既知のトラの個体群の5頭に1頭以上(20.8~22.8%、729頭)、既知のジャガーの個体群の200頭に1頭以上(0.53%、915頭)が影響を受けたと推定されている。また、著者たちは、計画中の水力発電ダムによってジャガーに過大な影響が及ぶことが予想されており、ジャガーの生息地に429か所以上の水力発電ダムが計画されているのに対し、トラの生息地では41か所以上しか計画されていないことを明らかにした。トラの生息地内で計画されているダムは比較的少ないが、これらのダムのほとんどは優先的保全地域に建設されることが予想されている。

著書たちは、トラやジャガーの生息地がこれ以上失われないように、ジャガーが生息する平坦で浸水しやすい地域(例えば、アマゾン川流域)や優先保全地域から離れた予定地に将来の水力発電ダムを建設することを勧告している。

doi:10.1038/s42003-021-02878-5

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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