創薬:2剤併用療法によってマウスのアルコール摂取を減らす
Nature Communications
2021年7月28日
有害な副作用なしにマウスのアルコール摂取量を減らす2剤併用療法について報告する論文が、Nature Communications に掲載される。この知見は、アルコール使用障害の治療戦略の開発に役立つ可能性がある。
アルコール使用障害は、患者数が多いが、その治療に有効な薬剤は限られている。齧歯類を用いた以前の研究で、アルコールの摂取によって特定の脳領域でmTORC1酵素が活性化することが明らかになっており、mTORC1がアルコール使用障害の治療標的候補となり得ることが示唆されている。しかし、mTORC1は脳以外の多くの臓器で重要な役割を果たしており、その活性を遮断すると、重篤な副作用(血小板数の減少、肝毒性、糖代謝障害、免疫系の抑制など)を引き起こすことがある。
今回の研究で、Dorit Ron、Yann Ehingerたちは、mTORC1阻害剤のRapaLink-1と小分子(RapaBlock)を雄マウスに投与する実験を行った。その結果、RapaLink-1を投与されたマウスの肝臓と脳においてmTORC1の活性が阻害されることが判明した。これに対して、RapaLink-1をRapaBlockと共に投与した場合には、脳内のmTORC1だけが阻害され、肝臓内のmTORC1は阻害されなかった。また、RapaBlockは、mTORC1の阻害に伴う肝毒性や糖代謝障害などの副作用を防ぐことも分かった。アルコールを大量に摂取したマウスに対してこれら2剤の併用療法を行ったところ、脳内のmTORC1活性が低下した。両剤を投与されたマウスでは、アルコール摂取量が減り、アルコール探索行動も減ったことが観察された。
Ron、Ehingerたちは、今後さらなる研究が必要になるとしているが、今回の研究によって得られた知見は、mTORC1の阻害によって体内に生じる有害な副作用を回避する2剤併用療法が、アルコール使用障害の治療法の開発に使えることを示唆している。
doi:10.1038/s41467-021-24567-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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