【神経科学】ヒトと大型類人猿の脳発生の違いはどのように生じたのか
Nature
2019年10月17日
ヒトの脳の発生に関する新知見とヒトとその他の大型類人猿の脳発生過程との違いを示した研究論文が、今週掲載される。この論文は、ヒト特有の脳発生の特徴を明らかにし、ヒトと他の霊長類の脳発生過程の違いがどのように生じたのかを概説している。
ヒトがチンパンジーや他の大型類人猿から分岐して以来、ヒトの脳は劇的に変化した。しかし、この分岐に関与した遺伝的過程と発生過程は十分に解明されていない。誘導多能性幹細胞から成長させた脳オルガノイド(脳様組織)は、実験室内で脳発生の進化を研究する可能性を生み出している。
今回、Barbara Treutleinたちの研究グループは、ヒト特異的な遺伝子調節の変化を探索するため、ヒト幹細胞由来の脳オルガノイドの分析を4か月にわたる多能性細胞からの発生過程において実施した。次に、Treutleinたちは、チンパンジーとマカクザルの脳オルガノイドを比較して、ヒトの脳オルガノイドの発生との違いを調べた。そして、発生過程上の同じ時点で比較したところ、チンパンジーとマカクザルの脳オルガノイドの皮質ニューロンへの種分化の方が、ヒトの脳オルガノイドよりも顕著なことが分わかった。この結果は、ヒトの神経発生がチンパンジーとマカクザルの場合よりも遅いことを示唆していると考えられる。
Treutleinたちは、今回の研究で得たデータが、ヒトとチンパンジーの発生中の脳で異なっている遺伝子調節機構に関するさらなる研究の指針になると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-019-1654-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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