海洋科学:サンゴにおける細胞死の臨界点
Scientific Reports
2011年11月18日
環境ストレスを受けているサンゴに起こるアポトーシス性細胞死に関与する経路が解明された。 サンゴの白化は、サンゴと共生する渦鞭毛藻類が失われることによる現象で、(例えば、海面水温の上昇による)環境ストレスを受けたサンゴ礁で発生し、生態系に壊滅的な影響を及ぼす地球規模の現象となっている。このサンゴの白化には、アポトーシス性細胞死が関係しているとされてきたが、こうした細胞の変化を支配する機構とサンゴと渦鞭毛藻類の共生におけるストレス応答の開始については、解明が進んでいなかった。 今回、T Ainsworthたちは、6種類の重要なアポトーシス調節因子のサンゴにおける相同体に着目し、サンゴの一種であるヒメマツミドリイシ(Acropora aspera)が環境ストレスを受けている際にこれらの調節因子がどのように発現するのかを調べた。その結果、アポトーシス促進遺伝子と抗アポトーシス遺伝子の双方に有意な変化が観察され、この共生におけるアポトーシスの制御がきわめて複雑なことを示唆された。また、アポトーシス性細胞死のカスケードは、環境ストレスを受けている細胞の生死のバランスを変える重要な役割を果たしている可能性があり、その後、サンゴの白化が起こることも明らかになった。 Ainsworthたちは、サンゴと渦鞭毛藻類の共生における細胞死を支配する分子機構が、日々の環境の微妙な変化に有意に応答し、そのような応答が、サンゴと渦鞭毛藻類の機能にほとんど影響を与えないと一般に考えられている温度帯で起こることを明らかにした。この複雑な細胞死系の全容を解明するには、サンゴの組織の機能、細胞分化過程と細胞回復過程に関するさらなる研究が必要だ。
doi:10.1038/srep00160
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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