動物学:吸引力を利用したヤツメウナギとクラゲの遊泳
Nature Communications
2015年11月4日
最も効率的に遊泳する海洋動物の一部は吸引力を使って水中を進むという報告が掲載される。クラゲとヤツメウナギは、海水を後方に押し出すことで推力を発生させるのではなく、主として体の周囲の流体に低圧域を発生させて水中を前進していることが観察されたのだ。
動物の(陸上、空中、水中での)移動運動の全てに当てはまる中心原理の1つは、体の周囲の接触面を押し返すことで前方推進力を発生させるということだ。遊泳動物の場合には、体を動かして水中に高圧域を作り出し、それを体で押し返して前方推進力を生み出している。
今回、John Dabiriたちは、水中のトンネル内を移動する2匹の自由に遊泳するヤツメウナギ(と遊泳効率を低下させた別の2匹のヤツメウナギ)と1匹のクラゲの動きを調べた。水中には微小な(10ミクロン大の)ガラスビーズが散布され、体の周囲の流体の動きを正確にたどれるようになっていた。Dabiriたちは、流体圧の異なる領域が前進運動と後退運動にそれぞれどのような寄与をするのかを計算し、動物の体を直接取り囲む流体における力の平衡が低圧域によって支配されていることを発見した。
こうした低圧域は、動物の体の協調したくねりによって生じる。くねりによって渦が生じ、それが動物の体の長さ方向に伝播し、それが前方への吸引力を生み出し、水中で体を効果的に前進させているのだ。クラゲとヤツメウナギは、遊泳時のエネルギーコストが最も低い部類の動物であり、両者に共通した効率的な遊泳のための策を利用すれば未来の水中機の設計に役立つ可能性がある。
doi:10.1038/ncomms9790
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
古生物学:南米の琥珀層に古代昆虫が「ひしめき合う」Communications Earth & Environment
-
気候変動:山火事の煙による年間死亡者数は増加すると予測されるNature
-
人工知能:DeepSeek-R1 AIモデルの背後にある科学Nature
-
医療科学:医療を導くAIツールNature
-
気候変動:温暖化によるサンゴ礁の緩衝機能の危機Nature
-
神経科学:繰り返される頭部外傷は若年アスリートの脳細胞を変化させるNature