生化学:アザラシの母乳は複雑さにおいて人間の母乳に匹敵する
Nature Communications
2025年11月26日
Biochemistry: Seal milk rivals human milk in complexity
大西洋ハイイロアザラシ(Atlantic grey seal)の母乳は、糖質の複雑さにおいて人間の母乳に匹敵することを報告する論文が、オープンアクセスジャーナルNature Communications に掲載される。この発見は、哺乳類の中で人間の母乳が唯一無二の複雑さを有するという従来の仮定に異議を唱えるものである。
乳オリゴ糖は、すべての哺乳類において乳児の発育と健康に寄与する糖類の一種である。これらの糖類は、病原体からの防御、初期のマイクロバイオームの育成、および腸管の発達促進など、重要な役割を担っている。その重要性にもかかわらず、人間以外の動物における乳糖の多様性に関する知識には空白がある。おもな理由は、ほかの哺乳類を対象とした研究が限られているためである。
Daniel Bojarら(ヨーテボリ大学〔スウェーデン〕)は、野生の大西洋ハイイロアザラシ5頭から、約17日間の授乳期間を通じて採取した母乳サンプルを分析した。その結果、332種類の異なる糖分子を発見し、そのうち240種類を構造的に特徴づけた。この240種の約3分の2(166種)は未報告だった。一部の分子は、28糖単位に達し、既知の人間の乳糖最大分子よりも最大10単位多い。著者らは、アザラシの母乳の糖組成が授乳期間を通じて調整され、乳児の成長段階に応じた変化を示すことを明らかにした。これは人間の母乳で見られる変化と類似している。さらに、新たに発見された糖類のいくつかには抗菌作用や免疫調節作用が確認され、生物医学分野での応用可能性が示された。
本研究は哺乳類の母乳の進化に関する従来の理解に疑問を投げかけるものであり、人間の母乳が哺乳類の中で唯一高度に発達しているという長年の仮説を覆すものである。また、乳児栄養、感染制御、および免疫系サポートへの応用が期待される生物活性化合物の発見に向けた有望な道筋を開く可能性がある。
- Article
- Open access
- Published: 25 November 2025
Jin, C., Lundstrøm, J., Cori, C.R. et al. Seal milk oligosaccharides rival human milk complexity and exhibit functional dynamics during lactation. Nat Commun 16, 10067 (2025). https://doi.org/10.1038/s41467-025-66075-2
doi: 10.1038/s41467-025-66075-2
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