注目の論文

健康:ヒトの健康リスクを裏付ける証拠を定量化する新しい方法

Nature Medicine

2022年10月7日

Health: New approach quantifies evidence behind risks to human health

喫煙や未加工赤肉を食べるといったリスク因子と健康に現れたその影響との関連について、こうした関連を裏付ける証拠の強さを定量化する標準化された方法が発表された。方法論が詳しく述べられているこの論文は、他の4本の論文とまとめて「IHME証明責任研究」と名付けられ、今月号に一括掲載されている。この方法の概念実証研究である他の4本では、喫煙、高血圧、未加工赤肉や野菜の摂取とそれらが健康に及ぼす影響とを関連付ける証拠を評価するのに、この標準化された方法が有効かどうかが検証されている。

リスク因子に曝されると、いくつかの病気を発症したり、その病気で死亡したりする確率に影響が生じることがある。従って、公衆の健康習慣を誘導したり、臨床レベル、個人レベルでより多くの情報に基づいた選択ができるようにしたりするなど、社会政策の方向を決める際には、リスクについて理解し、その大きさを定量化することが極めて重要である。しかし、現在使われている方法は主観的で、証拠の強さの定量化を巡ってはいろいろなレベルで不確実であり、正確な解釈ができず、明確なメッセージが伝わっていない。

P Zheng、C Murrayたちは、証明責任リスク関数(BPRF)(有害なリスク因子や防御的なリスク因子に曝された後で特定の健康状態に現れるリスクの増加や減少の大きさを内輪に見積もるメタ解析手法)を考案した。これは、複数の研究間の不一致と研究デザインの偏りの補正を取り入れた後で得られる証拠に基づいた数値である。つまり、BPRFはライフスタイル中に存在する因子に曝露されることがもたらすリスクもしくは防御の最小レベルの影響を、入手可能なデータに基づいて表したものと解釈できる。著者たちは、BPRFを星1つ(おそらく関連はない)から星5つ(非常に強い関連がある)までの星印の数で順位付けるという方法を使って分かりやすい形にしている。

4つの概念実証研究論文のうちの最初のものでは、調べた36の健康状態のうち29は喫煙とはっきりした関連があること、そのうち5つ(肺がん、喉頭がん、末梢動脈疾患など)はリスク上昇と疾患の関連が星5つに相当することをX Daiたちが明らかにしている。またC Razoたちは、高い収縮期血圧が虚血性心疾患にかなり有害な影響を及ぼすことを報告している。たとえば、収縮期血圧が107.5~165mmHgだと、虚血性心疾患のリスクは平均して101.36%上昇することが分かった(星5つに相当する)。H Lescinskyたちは、未加工の赤肉の摂取と虚血性心疾患のリスク上昇との関連について星2つという、弱い証拠と証拠なしの境界線上に位置していることを報告しており、J Stanawayたちは、野菜の摂取は虚血性心疾患のリスク低下に弱い関連がある(星2つ)と述べている。

著者たちは、BPRF法を既存の方法と併用すれば、臨床や公衆衛生の分野でガイドラインを作成する際に現在よりも役立つ情報が得られるだろうと結論しており、今後も新たな証拠が得られた際には解析結果をアップデートして行くと述べている。

doi: 10.1038/s41591-022-01973-2

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