注目の論文

ウイルス学:ゲノムデータから明らかになったサル痘集団発生の進化の軌跡

Nature Medicine

2022年6月24日

Virology: Genomic data sheds light on the evolutionary trajectory of the monkeypox outbreak

2022年5月に報告され、現在も進行中のサル痘集団発生に関連しているウイルス株は、以前からサル痘のエンデミック(地域的流行)があった国で2018〜2019年に起こった集団発生の際に調べられたサル痘ウイルスからの分岐系統であり、ウイルスの進化における最近の変化をよく表しているらしい。Nature Medicine に掲載されたこの研究は、現在のヒトからヒトへの伝播の間に起こっている進化も取り上げていて、これによってこの系統の伝播が増加したことが説明されるかもしれない。

サル痘は、オルソポックスウイルス属(天然痘ウイルスもこれに含まれる)のサル痘ウイルス(MPXV)が引き起こす珍しい感染症で、動物からヒトまで種を越えて広がっている。サル痘は西アフリカおよび中央アフリカ諸国に特有の地方病で、他の地域でまれに報告される感染例はこれらの地域からの持ち込みと関連付けられている。多数の国でのサル痘集団発生が初めて報告されたのは2022年5月で、以来6月18日までに世界中で2500を超える感染例が確認されている。

2022年の集団発生がどのようにして始まったのかを調べるために、J P Gomesたちは今回の集団発生に関連するMPXVのゲノム塩基配列を再構築した。解析により、このMPXVがMPXVクレード3に属することと、進行中の流行は単一の起源に由来する可能性が非常に高いことが分かった。この2022MPXVは近縁の2018〜2019ウイルスから分岐しており、違いは約50か所の一塩基多型、つまり遺伝的変動で、この数は、オルソポックスウイルスに対して予想されるものよりずっと多い。想定からはずれたこのような系統の存在は、現在進化が加速していることを示しているのかもしれないと著者たちは述べている。解析が進められた結果、現在進行中の進化の最初の兆候(15の一塩基多型、軽度のバリアント、遺伝子欠失)は、今回の集団発生でのヒトからヒトへの感染の際に生じていることが分かった。

さらなる研究は必要だが、これらの知見からは、ウイルスの進化の基盤と考えられる機構やヒトへの適応の際のウイルス遺伝子の標的候補についてのデータが得られており、2022年のMPXV集団発生を引き起こした系統の進化の軌跡を明らかにするのに役立つだろう。

doi: 10.1038/s41591-022-01907-y

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