合成生物学:病原体検出用のウエアラブル核酸バイオセンサー
Nature Biotechnology
2021年6月29日
Synthetic biology: Wearable nucleic acid biosensors for pathogen detection
布地に埋め込まれた核酸バイオセンサーによって、細菌性病原体や、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)などのウイルス病原体が検出できることを報告する論文が、今週、Nature Biotechnology に掲載される。この技術を取り入れることで、プライマリー・ケアの現場のような病原体曝露のリスクの高い環境で働く人々のために、診断機能を備えたマスクを作れる可能性がある。
合成生物学の手法を使うことによって、高い感受性と精度で病原体を検出できる核酸バイオセンサーを設計できる。病原体の核酸を検出できる遺伝的にコードされた回路を含むこのような診断ツールは、従来、ポイント・オブ・ケアの現場において昔ながらのやり方でSARS-CoV-2のような病原体の検出に使用されてきた。ただ、こういった病原体感知回路を凍結乾燥し、衣服に使われる柔軟性のある素材に埋め込んだ例がいくつか存在する。これまでの例では、布地は病原体感知能力のある細菌を封入することによって作られていたが、遺伝子操作した細菌を封入し、維持するのは難しい。無細胞の合成生物学センサーなら、こういった制約を克服できる。
今回、James Collinsたちの研究チームは、CRISPR技術を用いて、凍結乾燥した無細胞のウエアラブル合成生物学センサーを製作した。このセンサーは、再び水分を与えると活性化されて、ウイルス特異的な遺伝物質の存在を知らせる。Collinsたちは、このウエアラブルセンサーが、最も標準的な実験手法の性能に匹敵することと、シリコンエラストマーや布地のような柔軟性のある素材に組み込んで、標的病原体への曝露とその変化をリアルタイムで監視できることを実証した。このセンサーをマスクに織り込めば、空気中のSARS-CoV-2を検出することも可能になる。
合成生物学センサーをウエアラブルな布地にうまく織り込めたことは、生物医学やさらにそれ以外の分野にも応用できる、多機能なスマート衣服の作製に向けた第一歩となるだろう。
doi: 10.1038/s41587-021-00950-3
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