注目の論文

社会学:米国で警察を軍隊化しても犯罪発生率は抑制されない可能性がある

Nature Human Behaviour

2020年12月8日

Society: Militarization of police may not reduce crime in the US

米国で、余剰な軍装備品(surplus military equipment;SME)を地方警察に提供するのを正当化するために使用されている研究が、信頼性の低いデータに基づいている可能性があることを示した2つの論文が、Nature Human Behaviour に掲載される。より最近のデータからはまた、そうした軍事化は、暴力的な犯罪を減らさない可能性があることも示されている。/p>

米国では、車両、武器、戦闘と関連付けられてきた伝統的な衣服などのSMEが、国防総省から警察署や保安官事務所へと移管されることで、地方の警察機関の軍隊化が進んでいる。米国民の多くは、治安維持活動におけるそうした変化が、公共の安全にどのような影響を及ぼすかを懸念している。支持派は、SMEを救命のためとみており、凶悪な犯罪と闘う上で不可欠とみている。一方、反対派は、SMEは警察の権力の過剰な行使の要因となり、SMEの取得の背後には人種問題があるとみている。

2017年にトランプ政権は、SMEが犯罪発生率および警察官への暴力を減らすと報告した2つの研究を引用して、オバマ政権時に導入された軍隊化の制限を撤廃した。今回Tom Clarkたちは、2本の論文で、この主張の頑健性を精査した。以前の研究は、2014年に公開された政府のSME記録に基づいていた。Clarkたちは、どの警察機関がSMEを所有し、使用しているかに関するデータに大きな矛盾があることを見いだした。例えば、出荷された小火器などについての関連機関の受領記録が欠落していた他、一部の郡では、SMEの受領記録があるにもかかわらず移管はなかったと報告していた。

Clarkたちは、警察の軍隊化、特に犯罪発生率に対する肯定的な政策効果について、2014年に公開されたSMEデータに依拠した論文に基づいて確かな結論を導き、何らかの主張をすることは信頼性に欠けると結論付けている。またClarkたちが更新されたデータを用いて新たな解析を行ったところ、SMEの移管が犯罪を減らすという証拠は認められなかった。

別の論文ではKenneth Lowandeもまた、SMEの警察機関への移管の効果を解析するために使用されたデータの実質的な限界を調べている。Lowandeは、380万件のアーカイブされた在庫記録を使って、既存の研究におけるSME移管のバイアスの原因の規模を推定した。その結果、これまで参照されていなかった情報源に由来するデータに、最も大きな変動があることが明らかとなった。具体的には、管理されている品目について、ある3か月間の期間に1万5000件以上が当局の在庫記録から消えており、4000件以上がSME移管のために受領されていた。この事実は、犯罪発生率の抑制の効果を示すことを目的とした研究の信頼性が低いことを意味する。Lowandeは次に、2014年のデータと、2015年にオバマ政権がSME移管を制限した際に収集されたデータ(数百の警察の強制的な非軍隊化につながったデータ)の比較を行った。SME移管の支持派は、非軍隊化と暴力的犯罪の増加につながりかねないと訴えているが、Lowandeは、非軍隊化が暴力的犯罪や警察官の安全に影響を及ぼしたという証拠はほとんどないことを見いだしている。

doi: 10.1038/s41562-020-00995-5

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