Research Press Release
HIV-1の免疫系からの逃避と進化
Nature Medicine
2012年10月22日
HIV-1に対する強力な広域中和抗体の中には、外被のgp120上の特定の位置(Asn332)に結合したグリカンとよばれる糖分子を認識するものがある。ワクチン開発の試みの多くが目指しているゴールは、広域中和抗体を誘導することである。だが、Lynn Morrisたちは、このような広域中和抗体を生産する2人のHIV-1感染患者を調べ、感染初期に見られるウイルスは332位にグリカンをもたないため、このグリカンを標的とする抗体によっては中和されないことを明らかにした。しかし、感染後6ヵ月以内にどちらの患者でもウイルスが332位にグリカンを獲得し、おそらくそのおかげで他の血中抗体による認識を逃れることがわかった。感染から2年後までには、Asn332のグリカンは消失するが、これはおそらく後に発生したグリカン特異的広域中和抗体から逃れるためだろうと、著者たちは考えている。
さらに集団レベルで見ると、急性感染期に見られるHIV-1サブタイプCは、慢性感染期に見られるウイルス(332位にほぼ必ずグリカンをもつ)に比べると、グリカンをもたない場合が多いことがわかった。これらの知見は、抗体を介した免疫圧力に応じたHIV-1の進化の経過を示しており、このグリカンを標的にするだけでは、HIV-1感染を引き起こした最初のウイルスを十分に中和できない恐れがあると考えられる。
doi:10.1038/nm.2985
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
環境科学:火山活動が中世ヨーロッパにペストをもたらしたかもしれないCommunications Earth & Environment
-
人工知能:チャットボットは投票意向に影響を与えるかもしれないNature
-
社会科学:不安定なビデオ通話は、会話だけでなくそれ以上のものを損なうNature
-
天文学:衛星による光害が宇宙天文学研究を脅かしているNature
-
素粒子物理学:風変わりなクォーク四重項の定量化Nature
-
動物の行動:病気のアリはコロニーを守るため自ら犠牲となるよう合図するNature Communications
