Research Press Release
がんを利用する
Nature Chemical Biology
2012年9月24日
がん細胞の変異の仕組みからヒントを得て新種の反応を触媒する酵素が設計されたという論文が、Nature Chemical Biology(オンライン版)で発表される。この反応の成功は、ナイロンの前駆体である汎用化学物質「アジピン酸」の生物触媒による生産とともに、ほかのタンパク質の設計に関しても意義のあるものである。
目的の分子に至るまでの化学反応を触媒するために利用する酵素の数を増やし、場合によって必要とされる過激な溶媒やそのほかの障害物の利用を回避することは、合成化学の課題となっている。しかし、実用規模の化学変換では、目的の反応を触媒することが知られている酵素が存在しないために酵素を利用することができない場合が多い。
Hai Yanたちは、そのような用途にがんの変異が利用可能であることを明らかにした。研究チームは、広く利用されているアジピン酸を製造する生物触媒過程に欠けている反応が、がん細胞に発見された変異型のイソクエン酸脱水素酵素が触媒する反応に酷似していることに気付いた。類似したホモイソクエン酸脱水素酵素に同じ変異を導入することにより、狙いどおり2-オキソアジピン酸塩が(R)-2-ヒドロキシアジピン酸塩に変換された。
doi:10.1038/nchembio.1065
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
環境科学:火山活動が中世ヨーロッパにペストをもたらしたかもしれないCommunications Earth & Environment
-
人工知能:チャットボットは投票意向に影響を与えるかもしれないNature
-
社会科学:不安定なビデオ通話は、会話だけでなくそれ以上のものを損なうNature
-
天文学:衛星による光害が宇宙天文学研究を脅かしているNature
-
素粒子物理学:風変わりなクォーク四重項の定量化Nature
-
動物の行動:病気のアリはコロニーを守るため自ら犠牲となるよう合図するNature Communications
