気候変動がトウモロコシ市場に与える影響
Nature Climate Change
2012年4月23日
米国のトウモロコシ価格の変動率は、短期的な気候変動に対する感度が高く、エネルギー政策の影響や農業市場とエネルギー市場の統合に対する感度よりも高いことを明らかにした論文が、今週、Nature Climate Change(電子版)に掲載される。この研究は、特に関連する経済政策を考慮に入れて気候変動が価格に与える影響を定量化する初めての試みだ。
世界的な温室効果ガスの濃度に応答して、激しい温暖化事象の発生が増加する可能性を指摘する見解があり、これは、農作物の生産にとってのリスクとされる。ところが、極端な気候によるストレスの増加が収穫量とその変動に影響するかどうかは解明されていない。今回、N Diffenbaughたちは、21世紀の気温と降水量の変動予測と米国での気候条件と経済的要因に対するトウモロコシ収穫量の応答シミュレーションを用いて、この論点の解明に取り組んだ。その結果、気候変動全体によって、米国でのトウモロコシ価格の変動率が増加し、過去(1980〜2000年)には43%だったものが、将来(2020〜2040年)は177%になるという結果が出た。次に、Diffenbaughたちは、バイオ燃料使用義務(例えば、2011〜2012年の米国でのエタノールの「ブレンドウォール」)がある場合とない場合、そして、2つの異なる原油価格のシナリオを今回の解析に加えた。バイオ燃料使用義務がない場合には、気候変動に対する価格変動の応答は小さくなり、原油価格が高いシナリオでは31%(過去)と95%(将来)、原油価格が低いシナリオでは32%(過去)と109%(将来)になった。一方、バイオ燃料使用義務がある場合には、変動率がかなり大きくなり、原油価格が高いシナリ
オでは37%(過去)と192%(将来)に、原油価格が低いシナリオでは41%(過去)と200%(将来)となった。 Diffenbaughたちは、過去の気候条件下で、バイオ燃料使用義務が米国のトウモロコシ価格の変動に大きな影響を与えたが、近い将来の気候変動ではこれ以上の影響を与える可能性があると結論づけている。ただし、米国のトウモロコシ価格の変動に対する影響は大きいが、食料価格に対する影響は比較的小さいという予測も示している。
また、Diffenbaughたちは、今回の研究では、消費者の需要やトウモロコシ生産者の活動が価格上昇リスクに与える影響は考慮されていない点を強調している。特にトウモロコシ生産者の活動は、価格ショックに対する応答を緩和しうると考えられている。その一方で、Diffenbaughたちは、今後10年間に起こる可能性の高いとされる比較的低レベルの地球温暖化においても、エネルギー市場とそれに関連する政策決定によっては、気候変動の影響が大きく深刻化するおそれのあることが今回の研究結果で示されているという結論も示している。
doi:10.1038/nclimate1491
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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