気候変動:南極の棚氷が海洋温暖化によって脅威にさらされている
Nature
2025年10月30日
海洋温暖化の影響に関する包括的分析によると、高排出シナリオ下では2300年までに南極の氷棚の最大59%が消失するリスクがあることを報告する論文が、Nature に掲載される。これにより、世界的な海面水位が最大10メートル上昇する可能性がある。モデル解析によると、温暖化が2℃未満に抑えられるシナリオでは、氷床の損失は大幅に低減する。これは、南極の棚氷と沿岸地域を守るため、低排出量の実現が急務であることを強調している。
温暖化が進む中、南極の氷床は加速的に融解し、世界的な海面上昇の主要因となっている。氷床を取り囲む棚氷は、海への氷の流出を抑制する防護壁として機能しているが、排出量が増加とともに薄化と崩壊の危機に直面する。過去の研究では、将来の棚氷安定性を評価してきたが、衰退の主要因である海洋温暖化を見落とすことが多かった。
Clara Burgardら(ソルボンヌ大学〔フランス〕)は、海と大気の温暖化を両方考慮したシミュレーションを実施し、氷棚が構造的な安定性を失う時期と条件を解明した。その結果、氷棚が維持不可能となる時点は、排出シナリオに依存することが判明した。低排出シナリオでは、2300年までに温暖化を2℃未満に抑えた場合、調査対象64の氷棚のうち1つだけが維持不可能となり、リスクは2250年以降に増加する。一方、2300年までに温暖化が12℃近くに達する高排出シナリオでは、南極の氷棚38個(59%)が維持不可能となり、10メートルの海面上昇に寄与する可能性がある。大半の氷棚減少は、2085年から加速し、2170年頃にピークに達すると予測され、海洋温暖化が主要因と特定された。
著者らは、高排出シナリオにおける今回の氷棚消失の推定値は控えめなものであり、氷棚の損傷や亀裂、破断、分離などによっても崩壊が引き起こされる可能性があると指摘する。将来の海面上昇を緩和し、南極の氷棚と氷床の構造的な安全性を維持するためには、低排出経路を優先されるべきである。南極棚氷の安定性に関する将来のモデリングを強化するため、海洋と氷の相互作用に関するデータの改善も必要である。
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シュプリンガーネイチャーは、国連の持続可能な開発目標(SDGs;Sustainable Development Goals)、および当社のジャーナルや書籍で出版された関連情報やエビデンスの認知度を高めることに尽力しています。本プレスリリースで紹介する研究は、SDG 13(気候変動に具体的な対策を)に関連しています。詳細は、「SDGs and Springer Nature press releases」をご覧ください。
- Article
- Published: 29 October 2025
Burgard, C., Jourdain, N.C., Mosbeux, C. et al. Ocean warming threatens the viability of 60% of Antarctic ice shelves. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09657-w
doi:10.1038/s41586-025-09657-w
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