生態学:世界大戦時の沈没残骸が野生生物の生息地となっている
Communications Earth & Environment
2025年9月26日
バルト海(Baltic Sea)の海底に投棄された第二次世界大戦の弾薬の上には、周辺の堆積物よりも多くの海洋生物が生息している。オープンアクセスジャーナルCommunications Earth & Environment に掲載される論文によると、一部の海洋生物は、生息できる硬い表面があれば高濃度の有毒化合物に耐えられることが明らかになった。この結果は、人間の紛争による残骸が野生生物の生息地となり得ることを示しており、同様の傾向は、米国メリーランド州の第一次世界大戦沈没船群をマッピングしたオープンアクセスジャーナルScientific Data に掲載される研究でも確認されている。
1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(1972 London Convention on the Prevention of Marine Pollution;ロンドン条約)が締結される以前、爆発性弾薬は未使用のまま海中に投棄されることが頻繁に行われていた。これらの弾薬には。通常、海洋生物にとって極めて毒性の高い化学物質が含まれているが、硬質金属製の被覆は海洋生物が生息するのに適した表面にもなっている。
Andrey Vedeninら(ゼンケンベルク研究所、カール・フォン・オシエツキー大学〔ドイツ〕)は、2024年10月、バルト海リューベック湾(Lübeck Bay)で新たに発見された弾薬投棄場を遠隔操作潜水艇で調査した。弾薬の映像記録と現地採取水質の分析に加え、比較対象として周辺堆積物の2区域も調査した。
著者らは、廃棄された兵器を、第二次世界大戦末期にナチス・ドイツが使用した初期型巡航ミサイル「V-1飛行爆弾」の弾頭と特定した。兵器表面の海洋生物生息数は、堆積物に比べて著しく多く、平均で1平方メートルあたり約4万3,000個体が観察され、周囲の堆積物では、1平方メートルあたり約8,200個体に過ぎなかった。同湾内の自然硬質表面でも、同様の生物量規模が他の研究で記録されている。水中における爆発性化合物(主にTNT〔trinitrotoluene;トリニトロトルエン〕とRDX〔Research Department Explosive;トリメチレントリニトロアミン〕)の濃度は大きく変動し、最低30ナノグラム/リットルから最高2.7ミリグラム/リットル(海洋生物に致死的な毒性を及ぼす可能性があると推定される濃度)まで確認された。
著者らは、周囲の堆積物と比較して、弾薬の硬質表面に生息する利点が化学物質曝露のデメリットを上回ると示唆している。生物は、主に被覆された弾薬外殻上で観察され、露出した爆発物上では確認されなかった点から、生物が化学物質曝露を制限しようとしている可能性を推測している。ただし、著者らは、弾薬が現在湾内の重要な生息地である一方、安全な人工表面に置き換えることで地域の生態系にさらなる利益がもたらされると結論づけている。
別の研究では、Scientific Data に掲載されるDavid Johnstonら(デューク大学〔米国〕)による論文が、米国メリーランド州ポトマック川(Potomac River)沿いのマローズ湾(Mallows Bay)に沈む「ゴーストフリート(Ghost Fleet;幽霊艦隊)」と呼ばれる147隻の沈没船すべての高解像度写真地図を提示している。これらの船は、第一次世界大戦中に建造されたが、1920年代後半に意図的に焼却および沈没させられ、現在ではミサゴ(ospreys;Pandion haliaetus)や大西洋チョウザメ(Atlantic sturgeon;Acipenser oxyrinchus)など多様な野生生物の生息地として知られている。著者らは、2016年にドローンで撮影した全艦隊の高解像度写真(平均3.5センチメートル/ピクセル)を合成してこの地図を作成した。この地図が将来の艦隊に関する考古学的、生態学的、および文化的研究に有用であると提案している。
シュプリンガーネイチャーは、国連の持続可能な開発目標(SDGs;Sustainable Development Goals)、および当社のジャーナルや書籍で出版された関連情報やエビデンスの認知度を高めることに尽力しています。本プレスリリースで紹介する研究は、SDG 14(海の豊かさを守ろう)に関連しています。詳細は、「SDGs and Springer Nature press releases」をご覧ください。
- Article
- Open access
- Published: 25 September 2025
Vedenin, A., Kröncke, I., Weiß, T. et al. Sea-dumped munitions in the Baltic Sea support high epifauna abundance and diversity. Commun Earth Environ 6, 749 (2025). https://doi.org/10.1038/s43247-025-02593-7
- Data Descriptor
- Open access
- Published: 25 September 2025
White, E.C., Seymour, A.C., Dale, J. et al. Mapping the “Ghost Fleet of Mallows Bay”, Maryland with drone-based remote sensing. Sci Data 12, 1547 (2025). https://doi.org/10.1038/s41597-025-05635-z
doi:10.1038/s43247-025-02593-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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