Research Press Release

生態学:海洋の温暖化によって脅かされる重要な酸素生産性海洋微生物

Nature Microbiology

2025年9月9日

プロクロロコッカス(Prochlorococcus)——地球上で最小かつ最も豊富な光合成生物であり、重要な酸素生産者——は、中程度および高レベルの温暖化シナリオ下では、2100年までに熱帯海域で最大51%の個体数減少が見込まれることを報告するモデル研究が、Nature Microbiology に掲載される。太平洋を航行する船舶から収集された10年分のデータに基づくこの知見は、これらの細菌が従来考えられていたよりも気候変動の影響を受けやすいかもしれないことを示唆している。

プロクロロコッカスは、海洋生態系に不可欠なシアノバクテリアである。地球の表層海洋の75%に生息する様々な系統の光合成により、地球の酸素の約5分の1が生成されている。2100年までに多くの熱帯・亜熱帯海域の海面水温が30℃を常時超えると予測されており、これは海洋生態系への深刻な脅威となる。プロクロロコッカスは、最も温暖な熱帯・亜熱帯海域で繁栄可能であり、海洋温暖化に伴い生息域が拡大すると想定されてきた。しかし、こうした予測は実験室データのみに基づいていた。

プロクロロコッカスの野生個体群が海洋温暖化にどう反応するか推定するため、François Ribaletら(ワシントン大学〔米国〕)は、2010年から2023年までの10年間にわたり収集されたデータを分析した。熱帯・亜熱帯太平洋を航行する船舶に搭載した機器で継続的に収集されたデータから、プロクロロコッカスの分裂および増殖速度は海水温と密接に関連していることが判明した。しかし従来の予測では高温域でも指数関数的増殖が続くとされていたが、実際の海洋環境では海面水温が28℃を超えると分裂速度が急激に低下することが確認された。モデル化により、将来の温暖化シナリオ(代表濃度経路シナリオ〔Representative Concentration Pathways〕4.5および8.5に相当する中程度・高レベルの温暖化シナリオ)では、プロクロロコッカスの生産性が現在比で17~51%減少する可能性が示唆された。

この結果は、気候変動下における重要な海洋細菌の潜在的な脆弱性を示している。著者らは、現地サンプリングでは稀な耐熱性プロクロロコッカス系統の存在を見逃すリスクがあること、また、船舶航路に地理的な限界があるため一部のより高温な熱帯域を十分にサンプリングできていない可能性があることにも言及している。

シュプリンガーネイチャーは、国連の持続可能な開発目標(SDGs;Sustainable Development Goals)、および当社のジャーナルや書籍で出版された関連情報やエビデンスの認知度を高めることに尽力しています。本プレスリリースで紹介する研究は、SDG 13(気候変動に具体的な対策を)およびSDG 14(海の豊かさを守ろう)に関連しています。詳細は、「SDGs and Springer Nature press releases」をご覧ください。

  • Article
  • Published: 08 September 2025

Ribalet, F., Dutkiewicz, S., Monier, E. et al. Future ocean warming may cause large reductions in Prochlorococcus biomass and productivity. Nat Microbiol (2025). https://doi.org/10.1038/s41564-025-02106-4
 

doi:10.1038/s41564-025-02106-4

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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