工学:太陽光が宇宙近傍で超小型航空機の飛行を可能にする
Nature
2025年8月14日
高層大気中で観測機器などを支えることができる太陽光で駆動する超小型の浮遊装置の開発を報告する論文が、Nature に掲載される。これらの装置は、従来の燃料を必要とせずに高度を維持できるため、気候モニタリングや火星探査に活用できるかもしれない。
光泳動(Photophoresis)— ガス(または液体)中に浮遊する粒子が光によって加熱されることで生じる運動生成力 — は1世紀以上前から知られていたが、その実用化は最近になって積極的に検討され始めた。地球の大気の上層部では、空気が非常に薄いため、光泳動力が小さな物体を浮遊させるのに十分な強さを持つことがある。しかし、これまでほとんどの実験は、非常に小さく軽い材料に焦点を当てており、実用的な用途を持つより大型の機能的な装置へのスケールアップは困難であった。
Benjamin Schaferら(ハーバード大学〔米国〕)は、2枚の薄く穴の開いた膜を超小型な垂直支持体で接続した新しいタイプの飛行構造体を設計・製作した。コンピューターモデリングと実験を組み合わせ、光泳動力を最適化することで、高高度の太陽光に相当する光強度下で浮遊可能な1センチメートル幅のディスクを作成した。さらに、コンピューターモデルによると、3センチメートル幅のバージョンは、10ミリグラムの荷重(ラジオ周波数アンテナ、太陽電池、および集積回路を含む小型通信システムを支えることが可能)を、昼間の高度75キロメートルで浮遊させることも可能だという。
この研究結果は、光泳動の飛行が地球の大気監視や他の惑星探査のツールとなりうる可能性を示している。現在の火星輸送コストが1キログラムあたり米ドル100,000を超える中、光泳動装置は、専用の火星衛星と比較して大幅に小型化、軽量化、および省電力化を実現したセンサーや通信ミッションを実行できる可能性があると、著者らは指摘している。今後の設計では、ナビゲーションシステム、最大積載量の拡大、および運用時間の延長、そして大規模なミッションの実現が検討されるかもしれない。
- Article
- Published: 13 August 2025
Schafer, B.C., Kim, Jh., Sharipov, F. et al. Photophoretic flight of perforated structures in near-space conditions. Nature 644, 362–369 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09281-8
doi:10.1038/s41586-025-09281-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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