都市:人工光が都市部の生育期を延長させている
Nature Cities
2025年6月17日
北半球の428の都市圏における7年間の衛星データ分析結果によると、人工光は、農村部に比べて都市環境での生育期を最大3週間延長させているかもしれないことを報告する論文が、Nature Cities にオープンアクセスで掲載される。
急速な都市化により、都市はますます暑く、そして明るくなっている。具体的には、建物やコンクリートが熱を吸収し放射するため、都市部はヒートアイランド現象を引き起こし、都市部では昼夜を問わず周囲よりも大気温度が高くなる。同様に、都市部の夜間における人工光の量は過去10年間で10%増加している。光と温度は植物の生育期を大きく調節する。例えば、照明と温度の増加により、農村部の木々に比べて、都市部の木々は春の芽吹きや開花が早く、秋には色づきが遅くなる。しかし、これらの個々の影響や複合的な影響の規模については、十分な研究が行われていない。
Lin Mengら(バンダービルト大学〔米国〕)は、2014年から2020年に北半球の428都市(ニューヨーク、パリ、トロント、および北京など)で観測された衛星データと、夜間の人工光、地表付近の気温、および植物の生育期に関するデータを分析した。著者らは、夜間の人工光の電力量は農村部から都市部に向かって指数関数的に増加することを発見した。Mengらは、この光量の増加が、農村部から都市部への気温上昇よりも、都市部の生育期の開始と終了に大きな影響を与えると指摘している。また、人工光の影響は、生育期の開始よりも終了に特に顕著であることも判明した。具体的には、分析された都市では、成長期の開始は農村部よりも平均 12.6 日早く、終了は 11.2 日遅くなっている。
これらの一般的な傾向は北半球の都市で一貫しているが、著者らは大陸間の違いも発見した。著者らは、生育期の始まりはヨーロッパが最も早く、次にアジア、そして北アメリカの順であり、北アメリカの都市が最も明るいことを観察した。一部の気候帯(乾燥した夏を有する温帯気候や乾燥期のない寒冷気候など)では、生育期の始まりにおいて「夜間の光」の影響がより強く、一方、生育期の終わりにおける影響は都市間でより一貫していた。
著者らは、近年広まりつつある高圧ナトリウムランプからLED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)照明への切り替えが、植物の反応性を高め、人工光による生育期への影響をより複雑にしているかもしれないと指摘しているが、さらなる研究が求められている。Mengらは、今後の都市インフラ計画では、機能要件を満たしつつ植物への影響を最小限に抑える照明を組み込むべきだと提言している。
- Article
- Open access
- Published: 16 June 2025
Wang, L., Meng, L., Richardson, A.D. et al. Artificial light at night outweighs temperature in lengthening urban growing seasons. Nat Cities (2025). https://doi.org/10.1038/s44284-025-00258-2
doi:10.1038/s44284-025-00258-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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