Research Press Release

工学:油絵に生じた損傷を覆い隠す

Nature

2025年6月12日

デジタルで作成したラミネート・マスクを用いて油絵を修復する方法を報告する論文が、Nature に掲載される。この方法は、15世紀後半に描かれた損傷の激しい油絵の修復によって実証されたもので、絵画によっては現在の修復方法よりも短時間で修復できる可能性がある。

現在の絵画修復は、損傷分析、安定化、洗浄、そして損傷部分の修復(レタッチ)を組み合わせるため、数ヶ月かかることが多い。美術館に収蔵される絵画の数が増えているため、修復の優先順位が低い絵画もある。デジタル画像再構成は、修復の結果を視覚化して保存修復士を支援するツールとして使われてきたが、現在のところ、従来の修復経路を超えてこの再構成を適用する方法はない。

Alex Kachkine(マサチューセッツ工科大学〔米国〕)は、デジタルで作成したラミネート・マスクを使った油絵修復方法を報告している。このプロセスの第一段階では、損傷した画像のデジタル復元を作成し、必要な修復箇所を強調する必要がある。このマスクは次に、色精度の高い顔料を使ってラミネートに印刷され、絵画の表面に直接貼り付けられる。この技法は、15世紀後半に描かれた傷みの激しい木製の油絵を使って実演された。この絵画のマスクの面積は66,205平方ミリメートルで、57,314色の独自の色を使用し、貼り付けには約3.5時間かかった。マスクは取り外し可能で、元の作品に有害な変更を加える可能性がない。

Kachkineは、絵の具の質感がラミネートの貼り付けに影響するため、この方法は現在のところ、表面が滑らかなニス塗りの絵画にしか使えないと指摘している。著者は、この方法が新たな保存技術の開発につながり、デジタル修復と物理的修復のギャップを埋める助けになる可能性を示唆している。

  • Article
  • Published: 11 June 2025

Kachkine, A. Physical restoration of a painting with a digitally constructed mask. Nature 642, 343–350 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09045-4


 

doi:10.1038/s41586-025-09045-4

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

「注目のハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度