Research Press Release

遺伝学:APOE4遺伝子バリアントはアルツハイマー病の他とは異なる遺伝的タイプである可能性がある

Nature Medicine

2024年5月7日

複数のコホートで行われた研究で、APOE4遺伝子(アルツハイマー病に関連するAPOE遺伝子のバリアントの1つ)を2コピー持つ人のほぼ全員に、その後アルツハイマー病の症状が現れたことを報告する論文が、Nature Medicineに掲載される。このようにAPOE4を2コピー、すなわちホモ接合で持つ人は、他のAPOEバリアントをホモ接合で持つ人よりも臨床病変が早く出現する。これらの知見から、APOE4のホモ接合は、他とは異なる遺伝的タイプのアルツハイマー病である可能性が示唆された。

APP、PSEN1、PSEN2という3つの遺伝子の変異は、早期発症型の常染色体優性(顕性)アルツハイマー病(ADAD)の原因であることが知られている。一方、他のいくつかの遺伝子のバリアントは、より一般的な孤発性の(遅発型)アルツハイマー病の発症リスク上昇に関連するとされている。APOE遺伝子は、遅発型アルツハイマー病の最も強力な遺伝的リスク因子の1つと考えられている。APOE4のホモ接合は、アルツハイマー型認知症の生涯リスクが高いことが知られており、APOE4を1コピーしか持たない人や全く持もたない人に比べるとリスクは非常に高い。

今回、Juan Fortea、Víctor Montalらは、APOE4ホモ接合の人の臨床変化、病理変化、バイオマーカーの変化を評価して、アルツハイマー病発症リスクを決定した。著者らが用いたのは、米国の国立アルツハイマー病調整センターから得た3297人の脳ドナー(APOE4ホモ接合の273人の試料を含む)の病理データと、ヨーロッパと米国の5つの大規模多拠点コホート(対象者はアルツハイマー病のバイオマーカーを持つ)からの1万人以上のバイオマーカーと臨床データ(APOE4ホモ接合の519人を含む)であった。その結果、APOE4ホモ接合の人はほぼ全員がアルツハイマー病の症状を示し、55歳の時点でアルツハイマー病に関連するバイオマーカーのレベルがAPOE3遺伝子をホモ接合で持つ人に比べて高かった。65歳までにAPOE4ホモ接合の人はほぼ全員(少なくとも95%)に、アルツハイマー病の初期の重要な病理学的特徴である脳脊髄液中のアミロイド値の異常が見られ、75%はアミロイド画像検査陽性であった。著者らは、これらのマーカーが見られる割合が年齢とともに上昇することから、APOE4ホモ接合の人ではアルツハイマー病の症状の浸透率はほぼ100%に近いことが示唆されると述べている。また、APOE4ホモ接合の人には65歳前後でアルツハイマー病の臨床症状が見られ、これは他のAPOEバリアントを持つ人に症状が現れる時期よりも7~10年早いことが分かった。著者らは、症状の出現時期やバイオマーカーの変化が、ADADと同程度に予測可能であるとも述べている。さらに、APOE4ホモ接合の人は、他のタイプのアルツハイマー病に比べてバイオマーカーや臨床症状の出現時期が早いにも関わらず、認知症期には、アミロイドやタウの蓄積に他のタイプとの違いが見られないことも分かった。

著者らは、APOE4遺伝子バリアントは、他のAPOEバリアントと同様なアルツハイマー病のリスク因子であるだけでなく、アルツハイマー病の他とは異なる遺伝的タイプである可能性があると示唆している。このことは、個人に合わせた予防戦略、臨床試験、治療法の開発の必要性を示している。著者らは、より幅広い集団を対象とするなどして、さらに研究を進める必要があると結論付けている。

doi:10.1038/s41591-024-02931-w

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