初期の月で「マントルの逆転」が起きた証拠
Nature Geoscience
2024年4月9日
初期の月のマントルの進化に関する知見が得られたことを報告する論文が、Nature Geoscienceに掲載される。月の重力異常を検出したことで、月の内部に密度の大きい層が沈んだ証拠が得られ、この事象が起きた時期のより正確な推定が可能となった。
月の地殻とその下にあるマントルは、地球と他の小さな原始惑星との巨大衝突によって月が形成されたすぐ後に、溶けたマグマオーシャンが結晶化することで形成されたと考えられている。マグマオーシャンの最後の残りは、地殻とマントルの間の層で、チタンと鉄を含むイルメナイトなどの密度の大きい鉱物に結晶化したことが、複数のモデルで示されている。この高密度のイルメナイトに富む層は、マントルの上で重力的に不安定となり、イルメナイトが重なり合った結果、内部へ沈降したと考えられている。この種の「マントルの逆転」事象はまた、月で噴出した一部の火山岩の組成がチタンに富でいることを説明できるが、マントルの逆転やイルメナイト層の存在に対する物理的証拠はほとんど見つかっていなかった。
今回、Weigang Liang、Adrien Broquetらは、沈み込むイルメナイトに富む層のシミュレーションを、NASAのGRAILミッションにより検出された一連の月の重力異常と比較した。これらの異常は、月の火山活動が最も集中していた地域を取り囲んでいた。著者らは、この結果を、月の表面にある盆地の年代と組み合わせて、この事象が起きた可能性のある時期をより正確に決定した。
その結果、GRAILミッションで得られた重力の信号はイルメナイト層のシミュレーションと一致していることが判明し、これらの信号は、高密度のイルメナイト層の大部分が沈んだ後に残ったイルメナイト残滓から生じていることが示唆された。著者らは、次に、この事象が起こった時期を、月の衝突盆地に対する既知の年代を用いて絞り込んだ。その結果、イルメナイトに富んだ層は42.2億年前よりも以前に沈み込んだことが示唆された。このことは、この層が月の表面で見られる後期の火山活動に寄与することとも一致している。今回の発見は、月のマントルの進化について重要な知見を提供しており、進化の初期に独自のマグマオーシャンを持っていた地球のような惑星に対しても同様である可能性を示している。
doi:10.1038/s41561-024-01408-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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