環境:コロラド川の水の半分以上は農地の灌漑に使用されている
Communications Earth & Environment
2024年3月29日
米国のコロラド川の年間総流水量の半分以上が農業のための灌漑に使用されていることを報告する論文が、Communications Earth & Environmentに掲載される。この知見は、コロラド川の水がどのように消費されているか(人間の使用と自然損失の両方を含む)に関する新しい総合的評価の一部であり、全長2300キロメートルを超えるコロラド川の流域での河川水使用の全容解明に向けた前進となる。
コロラド川は、米国南西部(グランドキャニオンを含む)とメキシコ北西部を流れており、4000万人以上の人々と200万ヘクタール以上の農地に水を供給している。この地域では大規模干ばつ(メガ干ばつ)が続き、河川水の過剰取水も続いているため、コロラド川の水位は低いまま推移してきた。しかし、コロラド川は生態学的にも経済的にも重要な河川であるにもかかわらず、完全な水収支(河川水の移動と損失の詳細な分析)の計算が行われてこなかった。
今回、Brian Richterらは、2000~2019年の年間平均水使用量と損失水量を基にコロラド川流域の水収支を算出した。この水収支には、人間の直接的使用の全て(灌漑用水、家庭用水、工業用水、商業用水など)と間接的損失の全て(貯水池や湿地植生からの蒸発など)が含まれている。その結果、農業のための灌漑が、人間の直接的使用の74%、総消費量の52%を占めていたことが明らかになった。また、灌漑に使用された河川水の約3分の2は家畜飼料作物のために使用され、人間の直接的使用の46%、総消費量の32%を占めていたことも分かった。
今回の結果は、コロラド川の初めての完全な水収支であり、過去の水収支に含まれていなかった因子がいくつかある。例えば、メキシコにおける水消費量の合計(全体の7%)、コロラド川の主要な支流の一つであるアリゾナ州のギラ川流域における水消費量の合計(全体の9%)などだ。
Richterらは、将来の水不足を避けるためには水使用量を大幅に削減する必要があり、川の全長にわたって存在する多様な生態系を支えるためには、より多くの水を川に残す必要があると注意喚起した上で、コロラド川の水の使用を規制する6つの法的取り決めが2026年に失効するため、今回の知見が政策立案者にとって重要な意味を持つかもしれないと結論付けている。
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シュプリンガー・ネイチャーは、国連の持続可能な開発目標と、学術論文誌や書籍に掲載されている関連情報や証拠の認知度を高めることに尽力しています。このプレスリリースに記載されている研究は、SDG 6(安全な水とトイレを世界中に、Clean Water and Sanitation)に関係しています。詳細については、こちらを参照してください。(https://press.springernature.com/sdgs/24645444 )
doi:10.1038/s43247-024-01291-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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