遺伝学:はるか昔のトリソミー症例
Nature Communications
2024年2月21日
最も古くて約5500年前のものとされる先史時代の骨格遺物から、古代の染色体異常の症例(ダウン症候群6例とエドワーズ症候群1例)が明らかになったことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。著者らは、今回の知見によって、先史時代または先史以降の骨格遺物からエドワーズ症候群の存在が初めて特定されたという見解を示している。
染色体トリソミーを有する人は、細胞内に特定の染色体が2本ではなく3本ある。21番染色体のトリソミーはダウン症候群を引き起こし、18番染色体のトリソミーはエドワーズ症候群を引き起こす。これまでに古代人におけるダウン症候群の症例は、ほんの数例しか報告されていない。古代のDNA試料を解析するための最新の技術がなかったために、遺伝性疾患を特定するのが困難だったことが主たる理由だ。特定の古代社会がどのように遺伝性疾患の影響を受け、それらにどのように対応したかは、いまだ解明されていない。
今回、Adam Rohrlachらは、古代のヒト骨格遺物から採取した約1万例のゲノムをスクリーニングして染色体トリソミーを検出し、ダウン症候群6例とエドワーズ症候群1例を特定した。トリソミーが検出された骨格の持ち主のほとんどは、出生前または出生直後に死亡しており、新石器時代(紀元前3500年ごろ)のアイルランド、青銅器時代のブルガリア(紀元前2700年ごろ)とギリシャ(紀元前1300年ごろ)、鉄器時代(紀元前600年ごろ)のスペイン、中世後(1720年)のフィンランドのいずれかの出身であった。一部の症例は特に古く、2例が青銅器時代(紀元前2700年ごろ)のもので、もう1例が新石器時代(紀元前3500年ごろ)のものだった。Rohrlachらは、これらの人々の全てが死後にさまざまな儀式を通じて丁重に葬られていたと考えられるとし、地域社会の一員として認められていたことが示されており、いくつかの症例では破格の埋葬がなされたり、精巧な副葬品が用いられたりしていたと述べている。例えば、初期鉄器時代のスペインのナバラで埋葬された人は、青銅の指輪、地中海産の貝殻、3頭のヒツジやヤギの遺骸に囲まれて埋葬されていた。
今回の知見は、はるか昔の地域社会でトリソミーがどのように認識されていたかについての考え方を示している。
doi:10.1038/s41467-024-45438-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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