遺伝学:中石器時代の人々が噛んだカバノキのやにから口腔内の不健康が明らかに
Scientific Reports
2024年1月19日
約1万年前の中石器時代にスカンジナビア南西部で生活していた狩猟採集民集団の人々は、虫歯と歯周病に悩まされていた可能性があることを示した論文が、Scientific Reportsに掲載される。
今回、Emrah Kırdök、Anders Götherströmらは、1990年代にスウェーデンのHuseby Klevで発掘され、9890~9540年前のものと推定されたカバノキのやに試料(3点)から見つかったDNAの塩基配列を解読した。カバノキのやには、カバノキの樹皮を加熱することによって得られる。著者らは、それぞれの試料で検出された微生物種、植物種、動物種のDNAプロファイルを作成し、これまでに報告されている現代人の試料、古代人の歯垢、6000年前の噛み跡のあるカバノキのやに試料のDNAプロファイルと比較した。
その結果、現代のカバノキのやに試料中の微生物プロファイルが、現代人の口腔内、古代人の歯垢、6000年前の噛み跡のあるカバノキのやに試料のそれぞれから発見された微生物と非常によく似ていることが分かった。このことは、Huseby Klevで得られたカバノキのやに試料は人間が噛んだものであることを示唆している。また、一般に歯周病と関連付けられている数種類の細菌(Treponema denticola、Streptococcus anginosus、Slackia exiguaなど)や、虫歯と関連付けられている数種類の細菌(Streptococcus sobrinus、Parascardovia denticolensなど)の存在量が多いことも明らかになった。著者らは、カバノキのやに試料中の微生物種の相対的存在量に基づき、機械学習モデルを用いて、狩猟採集民集団の70~80%の人々が歯周病に罹患していた可能性があると推定した。著者らは、古代の狩猟採集民社会において、しっかりつかむ、切る、引き裂くといった作業を行うために歯が広く用いられたために、歯周病を引き起こす微生物種と接触するリスクが増大した可能性があるという見方を示している。
今回の研究では、微生物のDNAに加えて、一定種類の動植物種(ヘーゼルナッツ、リンゴ、ヤドリギ、アカギツネ、ハイイロオオカミ、マガモ、セイヨウカサガイ、ブラウントラウトなど)のDNA塩基配列と一致するものも特定された。これらのDNA塩基配列は、狩猟採集民集団の人々がカバノキのやにを噛む前に噛んでいた材料を反映している可能性がある。著者らは、このような材料に食料源、毛皮、骨角器などが含まれていた可能性があると推測している。
今回の知見は、中石器時代のスカンジナビアの狩猟採集民集団の口腔内が不健康だったことを浮き彫りにし、この集団の人々の食餌、材料の利用状況、地域環境について洞察するための手掛かりをもたらしている。
doi:10.1038/s41598-023-48762-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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