遺伝学:タスマニアデビルの個体数激減は共存する捕食者の遺伝学的状況に影響を与える
Nature Ecology & Evolution
2024年1月9日
タスマニアデビル(頂点捕食者種の1つ)は伝染性のがんによって個体群が縮小しているが、そのことが下位の捕食者種であるオオフクロネコの進化遺伝学的状況に影響を与えていると考えられることを明らかにした論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。
頂点捕食者の減少は世界的に発生しており、その生態学的影響は連鎖的に広がっている。その1つが競争の鈍化であり、それは生態系内の下位の中域的な捕食者(中間捕食者として知られる)の活動性の強化を可能にする。タスマニアデビルの個体群は、伝染性のデビル顔面腫瘍性疾患(DFTD:感染性がんの希少な一例)によって縮小している。このことはオオフクロネコ(中間捕食者)の資源利用と活動パターンを変化させたが、オオフクロネコの進化的過程にも影響が及んだかどうかは知られていない。
Andrew Storferらは、15世代にわたる345個体のオオフクロネコからゲノムマーカーのデータを収集し、DFTD有病率と地理的位置の違いに関連する遺伝的多様性と自然選択の証拠を探索した。その結果、DFTD有病率が同等の地域のオオフクロネコは、DFTD有病率とタスマニアデビル個体群密度が異なる地域に生息するものよりも遺伝的類似性が高いことが明らかになった。このことは、異なる環境に由来する個体に不利な選択的分散や選択を示していると考えられる。
Storferらはまた、オオフクロネコ全般の遺伝子流動の抑制と個体群構造の強化を裏付ける証拠を見いだした。これらは、競争の鈍化によって生じている可能性が高い。さらに、DFTD有病率とタスマニアデビル個体群密度の違いに関連し、筋発生、移動運動、採餌行動に関する遺伝子に作用する選択の証拠も示された。Storferらは、こうした形質が、オオフクロネコとタスマニアデビルの競争に関与し、それゆえタスマニアデビルの個体数が減少するとその選択が変化する可能性があると示唆している。
Storferらは、今回の「群集景観ゲノミクス」的手法を用いることにより、一般に捕食者の世界的減少による進化的影響の理解深化が可能になるかもしれないと考えている。
doi:10.1038/s41559-023-02265-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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