遺伝学:イエメンのコレラ流行において抗生物質耐性を促進した遺伝子を追跡
Nature Microbiology
2023年9月29日
イエメンで現在進行中のコレラのエピデミック(大流行)の原因となったコレラ菌株(Vibrio cholerae)には、2018年ごろに抗生物質治療が変化した後で、複数の抗生物質に対する耐性をもたらす遺伝子が出現したことを報告する論文が、Nature Microbiologyに掲載される。これらの知見は、ヒトの罹患率と死亡率を上昇させる多剤耐性菌株の出現を監視するためには病原体ゲノムの追跡が重要であることを明確に示している。
2016年に始まったイエメンでのコレラの流行は、近代では最大規模のものであり、2018年以降、コレラ菌の間で抗生物質耐性が広がっている。細菌の薬剤耐性は、自然突然変異を介して、あるいは耐性をもたらす遺伝子の獲得によって生じ、広まると考えられている。
Florent Lassalleらは今回、イエメンで2018~2019年に採取されたエピデミックの原因菌の260のゲノムDNA試料を解析した。その結果、2018年後期から、このエピデミックコレラ菌に新しいプラスミド(小型の環状DNA分子)が存在することが分かった。このプラスミドが、臨床的に利用される複数の抗生物質(マクロライド〔アジスロマイシンなど〕を含む)に対する耐性をコードする遺伝子をコレラ菌に持ち込んでいた。このプラスミドは2019年までに大幅に広がり、調べたエピデミックコレラ菌試料の全てで見つかった。これは、マクロライド系抗生物質が重篤なコレラに罹患した妊婦や小児の治療に使われていたことと良く符合する。また、この多剤耐性プラスミドが、エピデミック菌よりも病原性の低いエンデミック(地域性流行)のコレラ菌株にも見られることから、Lassalleらは、エピデミック菌とエンデミック菌の間でプラスミドと抗生物質耐性が交換された可能性があると示唆している。
Lassalleらは、臨床現場でのマクロライドの使用と遺伝子交換が、イエメンのコレラ菌株の間に多剤耐性を広める要因となったと結論付けている。そして、このような多剤耐性病原体の出現は、イエメンのコレラ流行のゲノムサーベイランスを継続することの重要性を実証していると述べている。
doi:10.1038/s41564-023-01472-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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