遺伝学:カカポのゲノミクスが保全活動に役立つかもしれない
Nature Ecology & Evolution
2023年8月29日
アオテアロア(ニュージーランド)原産の飛ばないオウムで、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅の恐れが最も大きい「深刻な危機」に分類されているカカポ(フクロウオウム;Strigops habroptilus)に関して、個体群の全数に近い個体の全ゲノム塩基配列を報告する論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。これらのデータは、カカポの今後の管理保全計画に有用な情報をもたらす一助となる。
カカポは、かつてアオテアロアの各地に広く分布していたが、人類が到来して捕食性の侵略的哺乳類が持ち込まれたことで個体群が大打撃を受け、1995年には生残個体がわずか51羽となった。これに対し、カカポ復活計画(Kākāpō Recovery Programme)は、テワイポウナム(南島)のニャイタフ族(Ngāi Tahu)と協力し、カカポの集中的な管理を開始した。捕食者のいない島にかくまったり、系図情報に基づく移動を行ったりするなどの対策により、カカポの個体数は252羽にまで増加した(2022年8月現在)。個体群内の遺伝的多様性を明らかにすることが、今後の保全活動に役立つと考えられる。
今回Peter Deardenらは、カカポの生存個体と保存試料の計169羽の全ゲノム塩基配列を解読し、このデータを、各個体の形態、生殖、行動、健康状態に関する情報(カカポ復活計画のモニタリング活動の一環として収集されたもの)と組み合わせた。こうしたデータに統計的手法を用いることで、個体群のゲノム多様性が推定されるとともに、胚の生存や幼鳥の成長速度、感染症の罹病率など、重要な適応度形質に関連するDNAの塩基配列が明らかになった。Deardenらは、この個体群規模のゲノム情報資源により個体群の進化的潜在能力のロバストな評価が可能になると示唆している。また、今回の知見により、繁殖や移動に関して高い遺伝学的価値を持つ特定のカカポ個体を発見したり、病気に罹りやすいと予想される個体を先回りでケアの対象としたりすることが可能になると考えられる。
Deardenらは、今回の知見によって、ゲノム情報資源が小規模個体群の保全に有用な情報をもたらし得ることが実証され、他の絶滅危惧種の管理に役立つ可能性のある統計ツールが生み出されたと結論付けている。
doi:10.1038/s41559-023-02165-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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