公衆衛生:用水路に繁茂する植物の駆除による寄生虫疾患の管理と経済的利益
Nature
2023年7月13日
西アフリカの複数の村で、給水所付近に生育する侵入種の沈水植物を選択的に駆除することで、住血吸虫症(淡水棲巻貝の寄生虫が媒介する病気)の発生率が低下することを明らかにした予備的研究について報告する論文が、Natureに掲載される。また、駆除された植物は、家畜の飼料や堆肥の安価な供給源となり、それによって農業と畜産業の生産高を増やせる可能性がある。この持続可能な手法は、食料と水の入手可能性を高め、感染症を減らし、貧困を緩和できる可能性があるが、この手法に拡張性があるかを見極めるためにはさらなる研究が必要とされる。
住血吸虫症は、マラリアに次いで2番目に多いヒトの寄生虫疾患で、住血吸虫を保有する水棲巻貝が原因になっている。この巻貝は、用水路に繁殖する侵入種植物であるマツモ(Ceratophyllum demersum)などに生息している。住血吸虫に感染して治療を受けても、給水所でこの巻貝に再び接触するため、再感染が頻繁に起こっている。
Jason Rohrらは、セネガルの16のコミュニティーを対象とした3年間の無作為化比較試験を実施して、用水路から侵入種植物を駆除することが住血吸虫の感染率に及ぼす影響を検証した。この研究期間中、8つのコミュニティーの給水所から水生植物(推定433メートルトン)が駆除された。植物を駆除した地域では、巻貝の個体数が約8分の1に減少した。また、この植物駆除の前後に、1400人以上の学童を対象とした住血吸虫の感染モニタリングが行われた。植物の駆除が実施された地域の学童は、対照地域に居住する学童に比べて、住血吸虫症の原因である扁形動物の1つであるマンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)に感染する可能性が32%低くなった。
この侵入種植物を駆除することには、住血吸虫の感染率の抑制の他にも利点があった。例えば、この植物を堆肥化して、肥料を生産することで、タマネギやピーマンの収穫量が増えた。また、この植物は、家畜ヒツジの飼料にも加工され、この植物を標準飼料に添加する量によって、コストを従来の家畜用飼料の41分の1~179分の1に抑えることができた。従って、この手法は、住血吸虫症のリスクを低減することに加えて、農業上の利益と経済的利益をもたらす可能性を秘めている。
doi:10.1038/s41586-023-06313-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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