神経科学:幻覚剤のうつ緩和作用に予想外の機構が関わっていた
Nature Neuroscience
2023年6月6日
幻覚剤であるLSDとシロシンは、抗うつ作用を誘導することが示されている特定の受容体に結合することが、実験室実験とマウスの研究によって明らかになった。このことを報告する論文が、Nature Neuroscienceに掲載される。今回の研究で、幻覚剤の抗うつ様効果に特異的な機構が解明され、それが幻覚作用に関連した機構と異なることが判明したことで、ヒトのうつ病の治療に使用でき、服用者が幻覚を起こさない新しい化合物の開発への道が開かれるかもしれない。
幻覚剤は、うつ病を軽減する薬剤としての可能性を秘めているが、幻覚作用があるために臨床での使用は限定的なものになっている。抗うつ作用と幻覚作用は、いずれも脳内のセロトニン受容体の活性化によるものと考えられている。
今回、Eero Castrénらは、培養したニューロンを使った実験で、LSDとシロシン(シロシビンの代謝物)がTrkB(神経栄養受容体チロシンキナーゼ)という受容体に強く結合することを見いだした。Castrénらは、これまでの研究で、典型的な抗うつ薬もTrkBに結合し、TrkBを介して作用するが、結合度がはるかに弱いという知見を得ていた。今回の研究では、TrKBに結合することで、TrKB上の脳由来神経栄養因子(BDNF)というタンパク質の作用が強化され、その結果としてニューロン間の接続が増強され、神経可塑性が誘導された。また、慢性ストレスのマウスモデルを使った実験では、LSDの単回投与によって持続的な抗うつ薬様の効果が得られた。こうした行動改善効果は、LSDがTrkBに結合することに依存しており、セロトニン受容体には依存していなかった。また、LSDを投与されたマウスには、幻覚作用の指標と考えられている首振り反応(head-twitch response)が観察されたが、この反応は、セロトニン受容体の活性化に依存しており、TrkBには依存していなかった。
今回の知見は、幻覚剤が一般的な抗うつ薬よりもはるかに強くTrkBに結合することを示しており、幻覚剤が幻覚作用とは別の機構によって抗うつ作用を誘導することを示唆している。
doi:10.1038/s41593-023-01316-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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