進化学:ミンククジラ類の小さな体は突進採餌の限界なのかもしれない
Nature Ecology & Evolution
2023年3月14日
クロミンククジラは、突進採餌がエネルギー効率の良い採餌戦略となり得る最小のサイズと考えられることを示した論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。
ヒゲクジラ類は、突進採餌として知られる採餌戦略を用いている。それは、被食者を豊富に含む大量の水を高速で口内に取り込み、それをヒゲの「ふるい」で濾過することによる戦略だ。この採餌法がエネルギー効率に優れるのは、ひとえにヒゲクジラ類が大量の水を口内に取り込めることによるものであり、80トンのシロナガスクジラは、体重の135%に相当する量の水を口内に取り込むことができる。この採餌戦略は、ナガスクジラ科最小の現生鯨類であるミンククジラ類も用いている(シロナガスクジラもナガスクジラ科の1種)。成体の体長は、シロナガスクジラが21~24メートル程度となるのに対し、ミンククジラ類の平均は7.7メートルほどだ。
David Cadeたちは、体に危害を加えない吸盤タグを用い、西南極半島で日中および夜間に採餌を行うクロミンククジラ23頭を観察した。その知見から、突進採餌はエネルギーコストが高いため、下回ると突進採餌が効率的な戦略とならなくなる最小サイズの束縛があることが示唆された。クロミンククジラは昼夜それぞれで同程度の割合の時間を採餌に費やすが、日中の突進採餌の頻度は夜間の25~40%にとどまることが明らかになった。また、日中の採餌のための潜水は夜間よりもはるかに深く、大きなクロミンククジラほど小さいものより長い時間を深海で過ごせることも見いだされた。その知見から、体長5メートル(離乳したミンククジラ類のサイズ)に満たないクジラはこの採餌戦略では十分な食物が得られそうにないことが示唆され、ミンククジラ類はオキアミなどの動物プランクトンを効率的に突進採餌できる最小のサイズと推断された。
Cadeたちは、今回の知見が全ての濾過摂食鯨類の進化を解明する上で意味を持つことを指摘し、海洋の条件が変化して突進採餌に適した被食者の大きな群れが深海にできやすくなったことで、効率的な濾過摂食と巨大な体が過去500万年の間に並行して進化したのだろうと示唆している。
doi:10.1038/s41559-023-01993-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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