気候変動:干ばつがヒッタイト帝国の崩壊につながった可能性
Nature
2023年2月9日
紀元前1198~1196年頃に中央アナトリアで発生した大干ばつが、ヒッタイト帝国の崩壊に重要な役割を担っていた可能性があることを報告する論文が、Natureに掲載される。この知見は、極端な気候変動が起こると、住民集団の適応限界を超えてしまい、何世紀にもわたって続けられた回復力を保持するための活動では対応できなくなることを示唆している。
半乾燥地域の中央アナトリアを拠点としたヒッタイト帝国は、紀元前1200年頃に崩壊するまで5世紀以上にわたって古代世界の大国であり続けた。ヒッタイト帝国は、たびたび社会政治的問題、経済問題、環境問題(例えば干ばつの脅威など)に直面していたが、長い間回復力を保持していたことが分かっている。この時期には、気候条件の寒冷化と乾燥化が300年間続き、このことが、東地中海と中近東におけるいくつかの古代文明の崩壊と関連付けられてきた。しかし、気候変動と人類史上の出来事との関連については、その正確な詳細が明らかになっていない。
今回、Sturt Manningたちは、ヒッタイト帝国の崩壊における干ばつの影響を評価するため、中央アナトリアに現生するビャクシンの木の年輪の安定同位体記録と測定結果を用いて高分解能の乾燥記録を作成した。その結果、紀元前1198~1196年頃に通常と異なる厳しい乾燥が続いたことが判明した。Manningたちは、この厳しい干ばつが長期にわたる食料不足をもたらしたとする見解を示している。ヒッタイト帝国の中核である内陸の領地は、特定の地域での穀物生産と畜産に依存していたが、特に干ばつの影響を受けやすかった。穀物や畜産品の不足は、政情不安、経済不安、社会不安を引き起こし、疾患の集団発生にもつながったと考えられ、結局は帝国の崩壊を早めた可能性がある。
このアナトリアの大干ばつは、予期せぬ複数年にわたる極端な気候現象に対する人間システムの脆弱性を実証するものとも考えられる。こうした極端な現象は、人間の対処機構を圧倒することがあり、Manningたちは、このことは、過去だけでなく、気候変動に直面している現代にも当てはまる可能性があると考えている。
doi:10.1038/s41586-022-05693-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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