がん:同種CAR T細胞療法で、多発性骨髄腫が治療できるかもしれない
Nature Medicine
2023年1月24日
Cancer: Allogeneic CAR T cell therapy could treat multiple myeloma
患者由来の細胞ではなく健康なドナーから得た細胞を使用する同種CAR T細胞療法が、多発性骨髄腫患者の治療の選択肢になる可能性がある。この現在進行中の第1相臨床試験の中間結果についての報告がNature Medicineに掲載される。
CAR T細胞療法は、がん細胞を認識して殺せるよう患者自身のT細胞を改変して利用する免疫療法で、多発性骨髄腫(形質細胞のがん)では、再発した患者や治療に反応しない患者の治療として2種類が認可されている。現在のところCAR T細胞の加工には時間がかかるので、ほとんどの患者は、最初に細胞を採取してから最終的にCAR T細胞を注射するまでの間に、中継ぎの治療が必要になる。つまり患者の一部は、がんが進行してCAR T細胞の注射不適格になったり、あるいはその間に死亡したりする可能性がある。同種CAR T細胞は患者からではなく健康なドナーから採取した細胞から作製するので、前もって用意することが可能で、患者をより迅速に治療できる可能性がある。
現在進行中の第1相臨床試験では、Sham Mailankodyたちが提供されたT細胞を操作して、多発性骨髄腫細胞で高度に発現されている抗原BCMAを認識するようにした。これを、宿主のさまざまな種類の免疫細胞の細胞表面に見られるCD52と呼ばれる糖タンパク質を標的とする抗体と組み合わせて、レシピエントの免疫細胞を枯渇させた。これまでにこの臨床試験には43人の患者が参加し、CAR T細胞を量を変えて投与された。著者たちによれば、データからこの治療が安全なことがわかったという。全体では、治療への反応率(治療後にがんが減少した患者の割合)は55.8%であり、高用量のCAR T細胞投与を受けた24人の患者では反応率は70.8%だった。ただし、治療を受けた患者の53.5%が治療後に感染を経験し、3人が感染に関連して死亡したことを、著者たちは明らかにしている。
この結果によって、多発性骨髄腫の同種間CAR T細胞療法の実行可能性と安全性が実証されたと著者たちは考えている。しかし、この臨床試験の最終結果が待たれるとともに、反応率を高めるためのさらなる戦略も必要になるだろう。
doi:10.1038/s41591-022-02182-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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