Research Press Release

天文学:恒星がブラックホールに引き裂かれた時に起こるまれな現象の観測

Nature Astronomy

2022年12月1日

潮汐破壊現象(TDE)において恒星が超大質量ブラックホールによって引き裂かれ、エネルギーが突発的に放出されるというまれな現象の観測を報告する論文が、今週、NatureNature Astronomyに掲載される。今回の知見によって、宇宙論的な距離に位置したブラックホールの特性の解明が進む可能性がある。

TDEを観測すると、超大質量ブラックホールが物質を蓄積(降着)して成長する過程を研究する機会が得られる。恒星は、ブラックホールに向かって急速に引き寄せられると崩壊し、構成物質がブラックホールの降着円盤に落下することがある。この時に降着した物質が強力な物質ジェットを発生させることがあり、非常にまれな場合には、TDEによって相対論的ジェットが生成され、光速に近い速度で移動するのだが、これらの現象はまれにしか起こらず、解明が進んでいない。今回、NatureとNature Astronomyで報告される観測結果により、こうしたまれな現象の解明を進めるための手掛かりが増えた。

Igor Andreoni、Michael CoughlinたちのNature Astronomy論文とDheeraj R. PashamたちのNature論文では、大量のエネルギーを放出する一時的な天文現象であるAT 2022cmcが検出されたことが報告されている。これは、複数の望遠鏡を使用して可視光波長域や他の波長域で行われた観測の結果であり、恒星が大質量ブラックホールに接近しすぎて激しく破壊された際に放出された明るいジェットからの放射と整合的だった。これらの観測結果、特にX線波長域での観測結果は、極端に高いエネルギーが関係していることを示しており、明るさが急激に変化することと現象全体の寿命が長いという特性は、相対論的ジェットを発するTDEという現象の特徴だ。これはまれな現象で、今回を含めて4例しか報告されていない。これまでに検出されたTDE現象の大部分は、近傍宇宙で発生していた。これに対して、今回観測されたTDE現象は、地球から約124億光年離れた銀河で発生したものだが、その明るさが並外れていたため、地球において可視光波長域での観測が可能になった。

Pashamたちは、この現象をモデル化した結果、太陽と同程度の大きさと質量の恒星が、比較的低質量のブラックホールによって破壊されたというシナリオを支持し、このような高度に相対論的なジェットは高い強度の磁場を必要とするという従来の理論に反して、推定される磁場の強度が異常に低い点を指摘している。Andreoniたちは、TDEの約1%において相対論的ジェットが生成されることが今回の研究結果によって確かめられ、この現象の稀少性に関する先行研究による予測が裏付けられたと結論付けている。

doi:10.1038/s41586-022-05465-8

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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