工学:水を加えるだけで活性化する紙製の使い捨て電池
Scientific Reports
2022年7月29日
水で活性化する紙製の使い捨て電池という原理が示され、その実証が行われたことを報告するGustav Nyströmたちの論文が、Scientific Reports に掲載される。Nyströmたちは、この技術が、物体追跡用スマートラベル、環境センサー、医療診断デバイスなど、さまざまな低消費電力の使い捨て電子機器に利用可能で、環境への影響を最小限に抑えることができるという考えを示している。
Nyströmたちが考案した電池には、1平方センチメートル大のセルが少なくとも1個用いられ、3種類のインクが印刷された長方形の紙片によって構成されている。この紙片全体には、塩化ナトリウム(塩)が分散しており、一方の短辺とその付近に蝋を染み込ませている。この紙片の表面には、電池の正極として作用するインク(グラファイト片を含有している)が印刷され、裏面には、電池の負極として作用するインク(亜鉛粉を含有している)が印刷されている。そして、それぞれのインク印刷の上には第3のインク(グラファイト片とカーボンブラックを含有している)が印刷されている。この第3のインクによって紙製電池の正極と負極が、蝋を染み込ませた部分に取り付けられた2本の電線とそれぞれ接続している。
この紙製電池に少量の水を加えると、紙の中の塩が溶け出して、電荷を帯びたイオンが放出される。このイオンは、紙の中で分散することによって電池を活性化し、電池の負極として作用するインクに含まれた亜鉛が、電子を放出する。2本の電線を電気デバイスに接続すると回路が閉じ、電子が、負極からグラファイト片とカーボンブラックを含有するインク、電線、デバイスを通って、正極(グラファイト片を含有しているインク)に移動し、そこで周囲の空気中の酸素に移動する。こうした反応によって電流が発生し、電気デバイスに電力が供給される。
今回、Nyströmたちは、この紙製電池について、低消費電力の電子機器を動作させる能力を実証するために、2つのセルを使って電池を作り、液晶ディスプレイ付きの目覚まし時計の電源に用いた。1セル電池で性能解析が行われ、2滴の水を加えた後、電池は20秒以内に活性化し、エネルギー消費型デバイスに接続しない場合に電圧1.2 Vで安定した(標準的な単3形アルカリ電池の電圧は1.5 V)。1時間後には、紙の乾燥が原因となって1セル電池の性能が有意に低下した。しかし、さらに2滴の水を加えると、安定した動作電圧(0.5 V)が1時間以上持続した。
Nyströmたちは、紙と亜鉛の生分解性により、低消費電力の使い捨て電子機器の環境への影響を最小限に抑えることができると提案している。また、Nyströmたちは、インクに使用される亜鉛の量を最小限に抑えることによって、この電池の持続可能性をさらに高めることができ、それによって電池が生成する電力の量を精密に制御することも可能になるという考えを示している。
doi:10.1038/s41598-022-15900-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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