COVID-19:中国のゼロコロナ戦略の解除はオミクロン株感染拡大の引き金となる可能性がある
Nature Medicine
2022年5月11日
もし中国が現在実施中のダイナミック・ゼロコロナ戦略(dynamic zero-COVID strategy)を解除した場合には、オミクロン変異株の大規模な感染拡大が起こって、死者はおよそ155万人、集中治療室(ICU)に対して推定される需要のピークは現在の収容能力の最大で15.6倍に達する可能性がある。これは、Nature Medicine に掲載されるモデル化研究で得られた結果である。
中国のダイナミック・ゼロコロナ戦略は、すばやい対処によりウイルス伝播の連鎖を断ち切って流行を迅速に終息させることを狙ったもので、これまでよりも感染力が高いSARS-CoV-2変異株(デルタ株やオミクロン株など)の出現に対応して、2021年8月から実施されている。しかし中国は現在、この戦略が持続可能かどうか、またどのような緩和策が考えられるか、検討を行っている。
2022年4月18日の時点で、中国では3歳以上の人口の91.4%が規定のスケジュールに沿った重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ワクチンの接種をすでに完了しており、さらにその53.7%はブースター接種も受けている。しかしこの免疫だけでは流行を防ぐには不十分かもしれない。2022年3月1日〜4月22日のオミクロン株の新規感染者は50万人を超えており、その93%は上海だが、中国のほぼ全ての省で感染が報告されている。疾病負荷(入院や集中治療が必要な患者数、死者数を含む)をなるべく小さく抑えながら、パンデミックの封じ込めを緩和していくことの実現可能性を検討しようと、H YuたちはSARS-CoV-2伝播の数理モデルを開発し、上海で2022年にオミクロン株流行が最初に急増した段階に合わせて調整を行って、ダイナミック・ゼロコロナ戦略を解除した場合の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の疾病負荷を予測した。
基本となるシナリオでは、ワクチンの追加接種を受けた集団で、大規模な検査、移動の制限といった公衆衛生的介入や抗ウイルス治療を強化しない状態が検討され、2022年3月のオミクロン変異株の出現により、2022年9月までの6か月間に、入院例が510万件、ICUへの収容は270万人、死者は155万人に達する可能性があることがわかった。ワクチン適用範囲のギャップによって生じた60歳以上のワクチン非接種者が、全死亡者数の74%を占めると推定される。
また著者たちは、COVID-19の疾病負荷を緩和する3通りの戦略、すなわち、追加接種や60歳以上のワクチン未接種者への接種促進を含めたワクチン接種のさらなる奨励、抗ウイルス治療の推進、NPIの強化の影響も検討した。これらの緩和戦略はどれも単独では不十分で、死亡者数をインフルエンザ流行期のレベルにまで減らしたり、救命医療の需要が供給を上回る事態を防いだりすることはできない。しかし著者たちは、複数の戦略(高齢者や重症化しやすい人でのワクチン接種の促進、抗ウイルス治療を受けやすくする、NPIなど)を組み合わせると、死亡者数を減少させ、医療体制の崩壊を防げる可能性があることも明らかにしている。
doi:10.1038/s41591-022-01855-7
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